本研究の目的は、体表からの検案では死因不明とされる異状死体について、死後CTの画像での死因診断基準を確立することである。2009年から蓄積してきた症例で検討を行ってきた。 まず肺所見を基軸とすることにして、肺所見と死因との関連性評価を行ってきた。その結果、死後CTの肺所見を幾つかのパターンに分類することができた。そして「ほぼ陰影なし」のパターンを示す症例のほとんどは低体温による死亡例で、少数の気管支喘息や高体温症(熱中症)も含まれることが分かった。溺水は「気道散布」パターンと「胸膜に達する不均一水腫」パターンを示す傾向にあることが分かった。またこれら陰影パターンは、溺水以外に見られることは少なかった。虚血性心疾患と非虚血性心疾患との比較のみではあるが、虚血性心疾患では「胸膜に達しない不均一水腫」を示すことが比較的多く、非虚血性心疾患では通常の死後変化である血液就下のみを示すことが多いことが分かった。このように、死後CT肺所見のみで診断可能である、また鑑別可能である死因の絞り込みを進めることができた。 また、これまで剖検所見とCT所見との乖離を幾つも経験してきたが、その中の一つに肝損傷がある。剖検では明らかに挫滅があるのにも関わらず、CT画像からは損傷を特定できないことが多くあった。しかしながら、症例を重ねていくうちに、比較的よく見かける所見がわかってきた。CT画像で肝損傷を疑う所見は、肝表面gas、肝内巣状gas、肝表面高吸収液貯留の3つに分類することができた。それぞれの所見を用いた肝損傷診断能を評価したところ、感度30%前後、特異度98%前後と算出され、今回見出した所見があればほぼ間違いなく肝損傷が存在すると言える。
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