研究課題/領域番号 |
19K08171
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
増永 慎一郎 京都大学, 複合原子力科学研究所, 教授 (80238914)
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研究分担者 |
真田 悠生 京都大学, 複合原子力科学研究所, 助教 (50738656)
田野 恵三 京都大学, 複合原子力科学研究所, 准教授 (00183468)
永澤 秀子 岐阜薬科大学, 薬学部, 教授 (90207994)
光藤 健司 横浜市立大学, 医学研究科, 教授 (70303641)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 休止期腫瘍細胞 / 腫瘍不均一性 / 癌幹細胞性 / ホウ素中性子捕捉療法 / 低温度温熱処置 / 低酸素細胞毒 / p53 status / 放射線損傷からの回復現象 |
研究実績の概要 |
担腫瘍実験用マウスに対するホウ素中性子捕捉療法(BNCT)施行時において、10B送達化合物の投与時に、低温度温熱処置(MTH)と連続的低酸素細胞毒のtirapazamine(TPZ)連続投与を同時併用すると、休止期(Q)腫瘍細胞制御をも加味した局所腫瘍全体としての制御を最も効果的に増強できる事はすでに明らかになっていたが、同様の併用処置は、治療対象となった局所腫瘍からの遠隔肺転移をも同時に効率よく抑えることも判明した。治療対象の局所腫瘍の制御および局所腫瘍からの遠隔肺転移抑制の双方の点から見てMTH併用連続的TPZ投与をBNCT施行時に併用する際の有用性が再確認された(Int J Radiat Biol, 95(12), 1708-1717, 2019)。
この成果は、本研究における3つの目的のうちの2つ、「BNCTにおける10B-化合物として、使用する化合物の種類や組み合わせも含めて最善の局所腫瘍効果が得られる投与手法がいかなる様式であるか」と、「BNCTを含む癌治療において、局所腫瘍制御と遠隔肺転移制御を同時に目指す処置を併用する意義」に対する一つの成果を与えることとなった。
他方、放射線による損傷からの回復をp53変異型細胞ではほとんど認めず、p53依存性イベントであることはすでに明らかになっていたが、腫瘍内全腫瘍細胞集団と比べても大きなQ腫瘍細胞集団での回復現象が、phosphoinositide 3-kinases阻害剤のwortmanninと同程度に、毒性のないMTHによって効率よく押さえられることも明らかになった。この成果は、3つ目の目的の「低酸素、DNA損傷からの回復能の視点から、腫瘍不均一性、Q腫瘍細胞分画特性、癌幹細胞性の間の相互関連を解析する」に向けた礎にもなりえると考えられた(World J Oncol 10(3), 132-141, 2019)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度の所属部局における研究用原子炉の全運転時間と研究のための実験への割当時間の少なさを考慮すると、やや予想以上の研究成果が得られたと考えている。特に、治療対象の局所腫瘍の制御および局所腫瘍からの遠隔肺転移抑制の双方の点から見て、低温度温熱処置(MTH)併用低酸素細胞毒のtirapazamine(TPZ)の連続的投与をBNCT施行時に併用する際の有用性を再確認できた担腫瘍実験用マウスを用いた実験を遂行できたことは、非常に有意義であった。
なお、p53のstatusに依存する放射線による損傷からの回復に関する解析に関しては、原子炉中性子線照射ではなく、ガンマ線照射を用いたので、当該年度の前半に実験を終えることができた。今後は、担腫瘍実験用マウスへのガンマ線照射が法律上の規制の関係よりかなり困難になる可能性もあるので、今回実験を終了させておいて良かったものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
「低酸素、DNA損傷からの回復能の視点から、腫瘍不均一性、Q腫瘍細胞分画特性、癌幹細胞性の間の相互関連を解析」するという3つ目の目的を達成するために、これまでの解析によって腫瘍特性がある程度明らかになっているp53以外の遺伝子背景が同一でp53正常型腫瘍細胞または変異型腫瘍細胞を用いた固形腫瘍を作成させた実験用マウスを用いて、10B送達化合物の異なった種類の薬剤を、異なった濃度で投与後、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)を施行し、固形腫瘍の治療効果を、全腫瘍細胞集団およびQ腫瘍細胞集団において別々に評価する。この結果から、腫瘍内環境の不均一性、Q腫瘍細胞集団の特性、投与薬剤の特性、の相互関係がある程度明らかになると予想される。
さらに、我々がかつて考案した酸素化Q腫瘍細胞の挙動を選択的に検出するための手法を用いてBNCT効果をさらに詳細に解析することによって、癌幹細胞性と、腫瘍内環境の不均一性、Q腫瘍細胞集団の特性との関係も明らかにできると考えている。
しかしながら、不安因子としては、最近の所属部局における研究用原子炉の全運転時間と研究のための実験への割当時間の少なさを考慮すると、BNCTに必須の中性子ビームの照射時間の割当が不足することも十分にあり得ると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度の所属部局における研究用原子炉の全運転時間と研究のための実験への割当時間の少なさが影響し、「低酸素、DNA損傷からの回復能の視点から、腫瘍不均一性、Q腫瘍細胞分画特性、癌幹細胞性の間の相互関連を解析」するという3つ目の目的の達成のために計画していた担腫瘍ヌードマウスを用いた実験が施行不可であった。やや高価なヌードマウスを用いた実験で実験動物購入費や消耗品費をやや高価に見積もっていたために、遂行不可の影響として、次年度使用額分が生じている。
次年度における、所属部局における研究用原子炉の全運転時間や研究のための実験への割当時間が確保されれば、当初より令和2年度に施行予定であった実験に加えて、当該実験の施行も十分に可能となると考えている。
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