研究課題/領域番号 |
19K08173
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大江 一弘 大阪大学, 医学部附属病院, 特任助教(常勤) (90610303)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 核医学治療 / 加速器製造核種 / ベータ線放出核種 |
研究実績の概要 |
本研究では、核医学治療のための放射性核種として、加速器による国内製造が可能な核種を新たに開発することを目指し、銀-111(111Ag)およびセリウム-141(141Ce)の加速器を用いた製造手法の開発、並びにこれらの核種の分離精製手法の開発を行うことを目的としている。本年度は111Agについて、加速器による適切な製造条件の検討を行った。標的として天然同位体組成のパラジウム(Pd)金属箔(厚み12.5 μm)を用い、これを複数枚重ねて使用した。理化学研究所のAVFサイクロトロンを用いて、24 MeVの重水素ビームを上記のPd標的にビーム量約180 nAで2 h照射した。照射終了後、Pdと重水素ビームとの核反応により生成したAgの放射性同位体について、Ge半導体検出器を用いたγ線スペクトロメトリーにより同定、定量を行った。その結果、111Ag由来の245 keVのγ線ピークを観測し、加速器を用いて111Agが製造されていることを確認した。また、得られたデータよりnatPd(d,x)111Agの核反応における反応断面積を算出し、励起関数を取得したところ、111Agの最大反応断面積がビームエネルギー約9 MeVにおいて40 mb程度となることを確認した。これらのデータは111Agの製造時において適切なビームエネルギーの選択に非常に重要である。一方、natPd(d,x) 反応により、111Agと同時に110mAgも生成されることを確認した。110mAg(半減期249.79 d)は111Ag(半減期7.45 d)と比較して非常に半減期が長く、取り除くことが困難であることから、実際の医療応用においては可能な限り110mAgの生成を抑え、また投与時における110mAgによる影響の大きさを動物実験等で詳細に確認しておく必要があることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、医療応用に向けて111Agおよび141Ceの加速器を用いた製造手法の開発、並びにこれらの核種の分離精製手法の開発を行うことを目的としている。 本年度はこれらのうち、111Agについて加速器による製造手法の開発を行っており、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
natPd(d,x)反応により製造した111Agについて、照射後のPd金属ターゲットからの分離精製法の検討を行う。陰イオン交換法を用いて硝酸溶液中においてPdと111Agの分離を試みる。141Ceについては、バリウム(Ba)標的とヘリウム-4(4He)ビームによる製造を行い、適切なバリウム標的の化合物の探索を行う。また、照射後のBa標的から、Ln resinを用いて141Ceの分離を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、Pd標的として、濃縮同位体である110Pdの購入を計画していたが、配分額に対して110Pdの購入費用が非常に大きいものとなり、その他の必要物品の購入や旅費の支出などに大きな影響を与えることが予想されたことから、110Pdの購入を見送ったため、次年度使用額が生じた。今後111Agや141Ceの分離精製を行うにあたって強酸の使用が想定され、ドラフトチャンバーを痛めないために酸の回収が可能なセットアップを新たに用意する必要等が出てきていることから、これらの物品と共に予定していた消耗品購入などに充てる予定である。
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