研究課題/領域番号 |
19K08185
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
月本 光俊 東京理科大学, 薬学部薬学科, 准教授 (70434040)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 放射線治療 / 治療抵抗性 / アデノシン受容体 / がん転移 |
研究実績の概要 |
放射線治療は有効ながん治療法の一つであるが、残存したがん細胞は治療抵抗性や高転移性といった高悪性度プロファイルを獲得し、再発や転移を誘発し奏功率を低下させる。奏効率の向上と根治のためには、がん細胞選択的に放射線細胞障害作用を増強させること、そして、残存したがん細胞の高悪性度プロファイル獲得を防止することが重要である。本研究では、アデノシン受容体を標的とし、がん細胞選択的な放射線抵抗性改善効果と転移能獲得防止作用を有する新規放射線治療向上薬の開発を目指し、肺がんなどの放射線細胞応答におけるアデノシン受容体の役割とアデノシン受容体阻害薬による放射線治療促進効果を明らかにする。 2019年度では、肺がん細胞の放射線DNA損傷応答および細胞運動能獲得に関与するアデノシン受容体サブタイプの解明を行った。その結果、γ線照射後のDNA損傷初期応答やEGF受容体核移行においてアデノシン受容体、特にA2B受容体が重要な役割を担っていることを明らかにした。特にA2B受容体の関与は、正常細胞に比べ、がん細胞で強いことを明らかにした。また、A2B受容体は、肺がん細胞の細胞運動能の獲得にも関与することが示唆された。 さらに、2020年度に検討予定であった悪性黒色腫に対するアデノシン受容体阻害薬の放射線増感効果についても検討も行った結果、放射線照射後のDNA損傷修復にアデノシンA2B受容体が重要であることを明らかにした。さらに、担がんモデルマウスを用い、in vivoでの検討を行った結果、A2B受容体阻害薬投与によって放射線治療効果が増強されることを明らかにした。 今後、A2B受容体の放射線抵抗性メカニズムの解明と転移能でのA2B受容体の役割について明らかにしていく。また、アデノシンの前駆体であるATPやADPによる作用についても興味深い結果が出て来ており、こちらについても今後検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
すでに肺がん細胞の放射線抵抗性に関与するアデノシンA2B受容体の関与について1月に論文発表し、さらに、悪性黒色腫に対するアデノシン受容体阻害薬の放射線増感効果についても3月に論文発表できており、当初の予定より順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
2020~2021年度は、A2B受容体がどのように放射線抵抗性に関与しているかの分子メカニズムを明らかにする。また、アデノシン受容体ががん細胞の放射線抵抗性に関与することが明らかとなったが、アデノシンの前駆体であるATPやADP、そのほかのヌクレオチド(GTP、UTP、ITPなど)やその代謝物(GDP、UDP、グアノシン、イノシンなど)の作用は明らかでない。そこで、様々なヌクレオチドとその代謝物によるDNA損傷修復への影響について明らかにする。 また、肺がん細胞や悪性黒色腫を用い、放射線照射後のがん細胞の運動能亢進におけるA2B受容体の関与とその役割を明らかにする。放射線照射後の細胞運動能の亢進、細胞骨格の変化(アクチンストレスファイバーの形成)に対するアデノシン受容体阻害薬およびノックダウンの効果について明らかにする。in vivoの転移モデルを用いた検討も行う。 さらに、神経膠芽腫での放射線治療抵抗性におけるアデノシンA2B受容体の役割についても検討していく。A172細胞を用い、DNA損傷修復および細胞生存率に対するアデノシン受容体阻害薬およびノックダウンの効果について明らかにする。また、肺がん細胞と同様に、細胞運動能の亢進や細胞骨格の変化に対するアデノシン受容体阻害薬およびノックダウンの効果について明らかにする。また、化学療法とアデノシン受容体阻害薬の併用効果についても検討する。 以上の検討により、放射線抵抗性や高転移性といったがん細胞の高悪性度プロファイルにおけるアデノシンA2B受容体の役割を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
残額が1,909円と少額になったため、次年度の直接経費と合算して細胞培養に用いる消耗品の購入費(物品費)に当てる予定である。
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