放射線治療は有効ながん治療法の一つであるが、残存したがん細胞は治療抵抗性や高転移性といった高悪性度プロファイルを獲得し、再発や転移を誘発し奏功率を低下させる。奏効率の向上と根治のためには、がん細胞選択的に放射線細胞障害作用を増強させること、そして、残存したがん細胞の高悪性度プロファイル獲得を防止することが重要である。本研究では、アデノシン受容体を標的とし、がん細胞選択的な放射線抵抗性改善効果と転移能獲得防止作用を有する新規放射線治療向上薬の開発を目指し、肺がんなどの放射線細胞応答におけるアデノシン受容体の役割とアデノシン受容体阻害薬による放射線治療促進効果を明らかにすることを目的に3年間実施した。 これまでに肺がん細胞、悪性黒色腫、ヒト神経膠芽腫細胞の放射線抵抗性にA2B受容体が関与し、担がんマウスにA2B受容体阻害薬を投与し放射線照射することで放射線治療効果が増強されること、またヒト神経膠芽腫細胞の放射線による細胞運動能亢進にA2B受容体が関与することを明らかにした。このようにがん細胞の放射線抵抗性や高悪性度プロファイルの獲得にA2B受容体が関与することを明らかにしてきた。 一方、正常気道上皮細胞では、ATPやADPを処置することにより、P2X7受容体やP2Y12受容体活性化を介して放射線細胞障害を減弱できることを明らかにした。 最終年度では、他のヌクレオチド・ヌクレオチドのがん細胞への作用についても解明するとともに、上記の成果を組み合わせ、A2B受容体阻害薬とATP/ADPを同時に処置することで肺がん細胞には放射線増感効果、正常細胞には放射線防護効果を選択的に誘導できることを明らかにしつつあり、本研究を基盤とした新たな放射線治療戦略に発展してきている。この新規治療戦略については、科研費 基盤研究C にて2022年度より3年間研究を実施し、発展させていく。
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