研究課題/領域番号 |
19K08189
|
研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
菊池 達矢 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 先進核医学基盤研究部, 主幹研究員(定常) (90392224)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 11C-シアン化水素 / ポジトロン断層撮像法 |
研究実績の概要 |
11C-シアン化水素を用いることで化合物に11C標識したシアノ基(ニトリル基)を導入できるだけでなく、さらに加水分解などにより11C標識したカルボキシル基、アミド基、アミノ基など種々の官能基に容易に誘導することができるため、11C-シアン化水素は非常に有用な11C標識中間体として知られている。しかしながら、従来の11C-シアン化水素の製造法は煩雑で専用の機器を用いる必要があることから、使用できる施設が限られている。そこで本研究では、11Cを製造している施設であれば何処でも容易に導入し得る11C-シアン化水素の簡便な製造法の開発を行っている。 2019年度では、最も広く用いられる11C標識前駆体である11C-ヨウ化メチルを、反応試薬を担持したガラス製カラムに過熱下で通じるだけで11C-シアン化水素を高純度かつ高級率で得ることに成功した。一方、比放射能については十分高い値であるものの、11C-ヨウ化メチルの比放射能から期待される値を下回った。 2020年度では、この比放射能の改善を行った。2019年度の検討で観察された比放射能の低下について原因を検討したところ、用いた試薬に由来する非放射性のホルムアルデヒドの生成によるものであることを確認した。そこで、非放射性のホルムアルデヒドを生成しない試薬の探索を行い、結果として高い収率と純度を維持したまま11C-ヨウ化メチルと同等の高い比放射能の11C-シアン化水素を得ることに成功した。この比放射能の値は従来の製造法で得られる11C-シアン化水素の値よりも数倍高かった。以上のことから、従来の11C-シアン化水素の製造法よりもはるかに簡便かつ同等の収率で比放射能が高い11C-シアン化水素を得る方法を確立した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度の検討により、11Cを製造している施設であれば何処でも容易に導入し得る11C-シアン化水素の簡便な製造法を当初の予定通り確立することができた。一方、反応カラムの調製をより簡便にする余地がある。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度では、11C-ヨウ化メチルから11C-シアン化水素を高純度かつ高級率で得ることに成功したものの、比放射能をさらに向上する余地があった。2019年度の検討では、アミンN-オキシドにトリメチルアミンN-オキシドおよびN-メチルモルホリンN-オキシドを用いた。これらのN-オキシドは加熱により分解しホルムアルデヒドを発生することが知られており、2020年度ではこのことが11C-ホルムアルデヒドの比放射能低下を招いていることを確認した。また、溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)を使用したが、DMSOも分解によりホルムアルデヒドを発生することが知られており11C-ホルムアルデヒドの比放射能低下を招いていることを確認した。そこで、N-メチル基を含まないオキシマトリンをN-オキシドとして用い、溶媒にはメチル基を含まないジフェニルスルホキシドを用いることで、非放射性のホルムアルデヒドの発生を防ぎ、高い比放射能の11C-シアン化水素を得ることに成功した。2019年度の検討で用いたDMSOは液体であるのに対し、2020年度に改善した方法で用いたジフェニルスルホキシドは融点が70℃の常温で固体の化合物で、150℃の反応条件では溶媒としてふるまう。この性質を利用し、2021年度では反応カラムを完全固相化することを目指す。これにより反応カラムの調製法をも含めて“簡便な” 11C-シアン化水素の製造法を確立する。 また、当初の予定通り、本技術を11C-エチレンオキシドや11C-エチレン、11C-アセチレンなどの有用な標識前駆体の製造にも応用することを検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナによる学術集会への参加日程の短縮が主な要因である。一方、本研究課題は順調に進捗しており、本予算を次年度の論文の校閲および投稿費として使用する。
|