研究実績の概要 |
最終年度までに、ヒト腫瘍細胞株(U2OS, MCF-7, HCT116)をもちいて、炭素イオン線照射後のPD-L1発現誘導レベルは、同等の物理線量のX線照射後と比較し高度であること、さらにこのPD-L1発現はX線と同様に ATR/Chk1といったDNA損傷シグナル、およびその下流のSTAT-IRF1経路を介して制御されることを解明した。また超高解像度顕微鏡をもちいて、X線あるいは炭素イオン線照射後のPD-L1発現の空間的分布を評価した。上記内容はJournal of Radiation Research誌にて発表した。 最終年度には、放射線照射後のHLA class I発現誘導メカニズムに着目し研究を行った。放射線照射によるHLAの細胞表面への提示を明らかにするため、X線および重粒子線 10 Gy照射後48時間でのU2OSおよび正常細胞(RPE)のHLA発現をFlow cytometryで測定した。その結果、X線と重粒子線いずれにおいても、非照射細胞と比較し、細胞表面のHLA発現を有意に高めた。なお、Western blotおよびqPCRの結果から、HLAタンパクおよびmRNAレベルはX線10 Gy照射後から48時間後まで有意な変化を認めなかった。さらに、DNA損傷誘導性HLAが提示する抗原が従来の抗原産生経路を介するかを調べるため、免疫プロテアソームのサブユニットであるPSMB8/9/10、または輸送トランスポーターであるTAP1/2ノックダウン細胞に対するX線照射後のHLA発現を評価した。その結果、PSMB8/9/10ノックダウン細胞およびTAP1/2ノックダウン細胞いずれにおいても、10 Gy照射後のHLA発現誘導が低下した。以上から、DNA損傷誘導性HLA発現は、HLAのタンパク発現変化依存的ではなく、抗原産生経路依存的である可能性が示された。
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