近年、放射線関連事業所における被ばく事故時の放射線障害や放射線治療に伴う副作用の軽減を目的として放射線防護効果を有する物質の研究がされている。本研究で使用した培養担子菌抽出物質は(Agaricus blazei Murrill )の熱水抽出物(以下:抽出物)である。この抽出物の成分はβ-(1-6)-D-glucanタンパク複合体を含む多糖類である。 令和元年度から令和2年度では、致死線量のX線全身照射マウス(ICR、雄、8週齢)に対する抽出物投与の放射線障害からの防護効果について検討した。8.0Gy全身照射マウスに対して抽出物の30-250mg/kg腹腔内投与(21日間)では明らかな延命効果を示した。その効果は照射直後に抽出物の投与を開始した群で顕著に認められた。さらに致死的放射線照射傷害からの生存率上昇効果の原因(マウスの死因 )について検討しところ、照射マウスの死亡時期は、照射後10-14日後に集中して認められた。死亡個体の出現は、3-4日に限定してみられ、死亡前日まで比較的活発な行動が確認された。そこで全身照射により死亡した個体の心臓血を培養した結果、多数の腸内細菌種が検出された。これは全身照射によりマウス腸管上皮細胞の腸管免疫系が照射後10日前後に破綻して腸内細菌が血液中に混入し、照射により白血球が減少した体内にて急速な敗血症を発症した結果と考えられた。抽出物投与の放射線防護効果は、この急激な菌の増殖の阻止に起因すると思われた。 令和3年度では、抽出物投与と移植腫瘍の増殖抑制効果について検討した。近交系マウスの大腿部皮下にMeth-A腫瘍細胞を移植し、抽出物単独(150mgー600mg/kg)14日経口投与により腫瘍増殖抑制効果が認められた。またX線の腫瘍局所照射後の抽出物投与の併用では、顕著な腫瘍縮小効果が認められた。
|