研究課題/領域番号 |
19K08202
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
納冨 昭弘 九州大学, 医学研究院, 准教授 (80243905)
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研究分担者 |
金 政浩 九州大学, 総合理工学研究院, 准教授 (80450310)
若林 源一郎 近畿大学, 原子力研究所, 准教授 (90311852)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 有機シンチレータ / 液体シンチレータ / プラスチックシンチレータ / ヨードベンゼン / クエンチング / I-128 |
研究実績の概要 |
令和元年度は、液体シンチレータおよびプラスチックシンチレータにヨードベンゼンを添加して中性子敏感型有機シンチレータを作成する手法について検討した。すなわち、比較的弱い中性子場での照射実験を行って、応答の基礎特性を観測することから始めた。ヨードベンゼンは、強力なクエンチャーとして作用することが予想されるが、弱い中性子場での中性子検出感度を高くするために、まずは、比較的多量のヨードベンゼンを添加した。 液体シンチレータ(InstaGel plus)にヨードベンゼンを5wt%, 10wt%, 15wt%添加してポリエチレンバイアルに封入し、近畿大学原子炉(1W)の熱中性子束が約1x10^7(n/cm2/s) の場で照射したところ、いずれのサンプルでも、半減期25分で減衰するI-128の成分が検出されたが、ごく微量、半減期が900分程度の成分も見られた。反射材として使用したテフロンテープ内の何らかの不純物の影響が疑われたが、テフロンテープを使用しない場合も、この成分は確認された。一方、波高分布へのヨードベンゼンによるクエンチングの影響は明らかで、濃度が高いほど低エネルギー側への著しい波高のシフトが観測され、検出されるパルス波高のしきい値以下となり、計数率の減少が見られた。 3D光造形装置で、プラスチックシンチレータにヨードベンゼンを10wt%添加して、直径1インチ、高さ1インチの円柱状に成形し、治療用X線発生装置で生成する光中性子の熱中性子束が約5x10^3(n/cm2/s)の場で30分間照射をしたところ、液体シンチレータの場合と同様に、半減期25分で減衰するI-128が観測された。しかし、液体シンチレータの場合とは異なり、他の長半減期成分は、一切確認されなかった。また、波高分布に対するクエンチングの影響は、同濃度の液体シンチレータに比べて顕著に少なかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
液体シンチレータ、プラスチックシンチレータ共に、比較的多量のヨードベンゼンを添加した際の、自己放射化シンチレータとしての動作特性を確認し、大きな問題がないことを把握した。
ヨードベンゼン添加に伴うクエンチングの影響は、放射能の定量性を担保する上で問題となるが、本研究で最終的に応用を目指している、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)のような、高強度の熱中性子場[~10^9(n/cm2/s)]での測定では、極微量のヨードベンゼンの添加で、測定に充分な量のI-128が生成されることが予想される一方で、そのような極微量のヨードベンゼン添加では、顕著なクエンチングの影響による波高分布の低下は起こらないことが期待される。
有機シンチレータは、NaI(Tl)やCsI(Tl)などの無機アルカリハライド系シンチレータに比べて放射線の照射損傷に強いことが知られており、また、原理的に長半減期の副生成物が生じないことが期待されるので、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)のような、高強度の熱中性子場に向いていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度以降は、ヨードベンゼンの添加量を少なくしたもの(1wt%~0.1wt%)の検出器を試作し、京都大学原子炉KURの高強度の熱中性子場で照射実験を行って、応答特性を調べることを目指す。 その際に、副生成物の生成、クエンチングの影響等に注意を払い、照射時間を正確にコントロールすることで、生成放射の定量評価が可能かどうかに注目して実験を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
学外の研究分担者の予算執行が滞り、残額がでてしまったため、次年度は液体シンチレータ等の消耗品の購入に充てる。
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