研究課題
本研究の目的は、腫瘍低酸素領域を標的とした標的α線治療薬剤としてアスタチン-211 (211At)標識ニトロイミダゾール誘導体を開発することである。本研究に先立ち事前に評価していたプロトタイプ化合物では腫瘍集積が低く、改善する必要性があった。ニトロイミダゾール誘導体の腫瘍集積は受動輸送に起因することから、薬剤の脂溶性の向上が腫瘍集積の向上につながると考え、今年度は脂溶性を向上させた候補薬剤の合成を実施した。プロトタイプ化合物はアスタチン標識部位として使用するネオペンチル構造に2分子の水酸基を導入した構造を有していた。そこで、2分子の水酸基のうちの1つをメチル基に置換した薬剤、及び2分子の水酸基をメトキシ基に変換した薬剤の2種類を設計した。また、標識反応に用いる前駆体にはどちらも脱離基としてトリフレート基を導入した。本検討では、211At標識体による評価に先立ち、入手、及び取り扱いの容易な放射性ヨウ素を用いた事前検討を実施した。In vitro安定性試験の結果、両化合物ともプロトタイプ化合物より安定性が低下した。しかし、正常マウスを用いた体内動態試験の結果、2分子のメトキシ基を導入した薬剤において生体内脱ヨウ素の指標となる胃への集積は低値であった。そこで、211At標識体を作製し、生体内安定性を検討した。本211At標識体は放射性ヨウ素標識体と同様プロトタイプ化合物より胃への集積が高かったが、既存の薬剤と比較して同等以下であったことから、腫瘍集積を改善することができれば治療薬剤としての応用も可能であると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
今年度は脂溶性の向上による211At標識ネオペンチル誘導体の腫瘍集積性向上を目的として候補薬剤を設計、合成した。合成は順調に進行し、2種類の前駆体を合成することができた。また、合成した2種類の前駆体を用いて、放射性ヨウ素を用いた標識反応を実施した。標識条件について検討を加えたところ、有機アミンの添加により放射化学的収率が向上することを認め、評価実験の実施において十分な放射能の標識体を容易に調製可能となった。今後の検討においても本知見は非常に有用である。得られた放射性ヨウ素標識体による事前検討を実施したところ、標識薬剤として応用可能な安定性を有していることを認めた。さらに、211At標識体に展開した場合も、標識体を非常に高収率で得ることができ、また十分な安定性を示した。以上、本候補薬剤は現段階では治療薬剤への応用に適した性質を示しており、今後の実験において、腫瘍集積等を評価することで治療薬剤への応用が期待できる。
今年度の評価において、有用性を認めた候補薬剤について評価実験を進めていく。具体的には、担癌マウスを用いた体内動態試験を実施し、腫瘍集積を評価する。また、in vitro試験において腫瘍低酸素領域への特異的な集積を確認する。本評価実験が終わり次第、得られた成果を基にして新たな薬剤を設計する予定であるが、治療薬剤として十分な性質が認められれば、新規薬剤の合成と並行して担癌マウスを用いた治療実験も実施する。
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