研究課題/領域番号 |
19K08223
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
林 裕晃 金沢大学, 保健学系, 准教授 (30422794)
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研究分担者 |
金澤 裕樹 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 助教 (80714013)
生島 仁史 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 教授 (90202861)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 放射線治療 / 被曝線量 / OSL線量計 / 直腸線量 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,個人被ばく線量計などに用いられているOSL線量計(光刺激ルミネッセンス線量計)の検出素子を利用して,カテーテルに巻き付けたタイプの新しい放射線被ばく線量計を開発することである.この線量計は,放射線を利用した子宮頸癌治療時に,放射線感受性の高いリスク臓器として知られている直腸の線量を実測することに用いる. OSL線量計は,商用の小型のものが知られており,近年の被曝線量測定研究に用いられている一方で,商用以外の線量計の開発は非常に困難であるため,線量計システムの開発をメインに行っている研究は非常に少ない.本研究では,メーカーとの共同研究により個人被ばく線量計に用いられているOSLシートの提供を受けて,研究室独自の線量計を作成することに成功した.具体的には,線量計の素子部分のみを使って,臨床に用いるカテーテルにこの素子を巻き付けることで,超小型・超低侵襲の線量計を作成できた.この線量計の性能を評価するために,アクリルでできた直方体(ファントム)に線量計及び線源の挿入孔を加工し,臨床で用いられている照射装置を利用して,ファントム実験を行った.その結果,精度10%ほどで1-10Gyの線量域で解析を行えることが分かった. 原理実証をすることができたので,この得られた精度が十分であるか,また,臨床に用いた場合に研究目的として設定した患者起因の誤差要因を実測できるかということを包括的に判断し,臨床研究へと発展させたい.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
主に実験的なアプローチによって,線量計の作成とその原理実証を行った. 臨床で用いられている直径6㎜のカテーテルに,2cmのOSLシートを巻き付け,熱収縮チューブによって固定するというアイデアで線量計を作成できることを実証した.この際,得られた放射線の情報が可視光によって失われてしまうため,OSLシートは黒いビニルで遮光した.この線量計の解析には,商用のOSL線量計用のリーダーを用いることを発想し,商用の検出器である小型OSL線量計(nanoDot OSLD,長瀬ランダウア株式会社)の検出器ケースに,照射を行ったOSLシートを打ち抜きはめ込むことで,線量計として正しく機能させられることを実証した. この開発した線量計の基礎特性を明らかにするために,臨床で用いられている192-Irの密封放射線治療装置を用いて,実際に照射実験を行った.治療で想定される線領域である1-10 Gyの領域で,線量計で得られた応答値を線量に変換するための校正直線を精度10%程度で得ることができた.さらに,線量計が患者の直腸内で様々な方向を取ることが想定されるため,線源と線量計の角度が線量の測定値にどのように影響を及ぼすのかを評価した.その結果,線量計として用いた2cmのシートから均等に3つの解析領域を設定し,それらの値の平均値を算出することで,角度依存性の問題を解決できることが分かった.
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今後の研究の推進方策 |
上述したように,ファントムを用いた線量計の評価は順調に進んでいる.そこで,これらの値の裏付けを行うために,モンテカルロシミュレーションによる線量計算を行いたいと考えている.研究で用いている臨床用の装置は,1世代前の線量計算アルゴリズムが適用されており,100%の水で校正された球を仮定して線量計算を行っている(TG43アルゴリズム).現実の実験で用いているファントムはアクリルで構成されており水と組成が異なるし,また大きさも違う.これらの影響を丁寧に評価することで,これまでに取得した線量校正直線の精度を検証する予定である. 次に,臨床データの取得及び解析に向けて,線量計の誤差要因を明らかにする必要がある.そのためには,ファントムスタディの枠組みで評価が可能な誤差項目(統計誤差・系統誤差)と臨床研究を行うことで初めて明らかになる誤差項目(患者起因の誤差)を整理し,本研究の目的である患者起因の誤差をより適切に評価できるような工夫が必要であると考える. 放射線治療における誤差要因は,これまでに数多の先行研究がある.そこで,著名雑誌のレビューペーパーを参考に,過去の文献調査を行って,どの程度の誤差が想定されるのかを調べ,本研究で開発した線量計の性能がこれまでに開発されてきた線量計と同程度であるかどうかを評価する. これらの誤差解析に基づいて臨床研究も行う予定である.臨床では様々な誤差要因が持ち込まれることが想定されるため,担当の医療スタッフと研究成果を共有し,臨床に起因する誤差がより明らかになるような研究方法を考えて,研究を発展させたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
予算計画をした時点と購入時で価格変動があったため,購入できる範囲で物品を購入し残金が生じた.令和2年度は臨床データを取りまとめて論文を投稿する計画であるため,令和2年度の予算配分と合わせて,英文校正代や論文投稿料などに経費を執行する計画である.
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