研究課題
グルタミン酸は中枢神経系における主要な興奮性神経伝達物質であり、記憶や学習機能に重要な役割を果たしている。一方で、過剰に放出されたシナプス内グルタミン酸は、神経細胞障害(グルタミン酸興奮毒性)を引き起こし、種々の神経疾患の一因と考えられている。MRSの検討からけいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD)にグルタミン酸興奮毒性が関与することを明らかにし、成果を第57回日本小児放射線学会(令和3年6月開催)において「小児急性脳症の臨床・画像最新情報」で報告した。軽症興奮毒性型急性脳症(MEEX)15例の臨床、画像、MRS所見を集積し、従来神経学的予後良好とされていたMEEXで少数ながら言語発達遅滞、発達障害を呈することを明らかにした。急性脳症以外の神経疾患におけるグルタミン酸興奮毒性の検討では、SPTAN1関連発達性てんかん性脳症のMRSにてグルタミン酸・グルタミン高値を呈することを世界で初めて報告した。SPTAN1遺伝子がコードするα-Ⅱスぺクトリンはシナプス前終末の開口分泌に関与している。その機能障害によりグルタミン酸のシナプスへの放出が障害され、グルタミン・グルタミン酸サイクルに異常をきたしている可能性が示された。また、メチルマロン酸血症(MMA)の急性増悪時のMRS所見にて乳酸とグルタミンの高値が観察され、MMAの脳機能障害にメチルマロニル酸蓄積によるミトコンドリア機能障害に加え、グルタミン酸興奮毒性も関与していることが想定された。
2: おおむね順調に進展している
本研究の第一の目的とした「興奮毒性型脳症」は、典型的AESD, 軽症型MEEXを含めた広い疾患概念であることを確立しえた。AESDの片側型、AESDとMEEXの中間型の存在も示唆されており、さらなる検討を継続する。SPTAN1関連発達性てんかん性脳症のMRS所見については Brain Devに論文受理された。MEEXの臨床、画像、MRS所見、ならびにメチルマロン酸血症(MMA)におけるグルタミン酸毒性については論文作成中である。第21回小児核医学研究会(令和4年6月開催予定)において教育講演「小児急性脳症の臨床と画像」で本研究成果を講演予定である。
感染性急性脳症(AESD, MEEX)に関しては、AESDの片側型(HHE)、AESDとMEEXの中間型に関しての臨床・画像検討を継続する。特にHHEに関して病側、健側の脳代謝を解析し発症病態を解明する。低酸素性虚血性脳症(蘇生後脳症)においてもグルタミン酸興奮毒性の関与が想定されることから、本症患児の脳代謝をMRSで解析しその脳病態を解明する。また、いまだに病態の不明な小児神経疾患・代謝性疾患におけるMRSの検討から、興奮毒性を含めた病態を解明する。臨床面では、厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)「小児急性脳症の早期診断・最適治療・ガイドライン策定に向けた体制整備」の研究代表者として、小児急性脳症診断治療ガイドラインの改定作業を推進する。
令和3年9月に予定されていた44th European Society of Neuroradiology(ESNR)annual meetingにて、本研究成果を発表する予定であった。新型コロナウイルス感染拡大のため渡航が困難となり参加を見送った。そのため本学会のために計上していた旅費・学会参加費が不要となった。令和4年度は、MRSならびにグルタミン酸興奮毒性に関する最先端の情報収集、研究者との討論のため45th ESNRに本研究の成果発表を予定し、そのための参加費・旅費支出を計上している。物品費としてMR解析用PCならびにソフト、論文校正の支出などを予定している。
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