研究課題/領域番号 |
19K08241
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
岡村 敏充 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 先進核医学基盤研究部, 研究員(任常) (80443068)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | PET / チオシアン酸イオン / 排出システム |
研究実績の概要 |
身近な食品や医薬品等の摂取により、生体内では毒物として知られているシアン化物イオン(CN-)が生成され、CN-はさらに代謝を受けチオシアン酸イオン(SCN-)となる。SCN-は神経障害を惹起する中毒性を持つと考えられているため、脳にはSCN-を排出することでSCN-の脳内濃度を低く保つ機構の存在が示唆されているが、その実体は今のところ不明であり、生理的役割もほとんどわかっていない。従って、脳内のSCN-排出速度を非侵襲的に測定することが可能となれば、SCN-の中毒性の評価に大きく貢献することが期待される。そこで、本研究では、ポジトロン断層撮像法を用いて、脳内SCN-の排出速度を非侵襲的に定量測定するための方法を開発する。今年度は、候補化合物として血液脳関門を通過し、脳内で速やかに[11C]SCN-を遊離する6-thiocyanatopurine誘導体(TP)を設計し、標識合成を行った。[11C]TPの合成は当初の計画に従って、N,N-ジメチルホルムアミド中、硫酸銅(II)存在下、ハロゲン前駆体と[11C]SCN-との反応により行った。前駆体がクロロ体あるいはブロモ体では反応が進行しなかったが、ヨード体を前駆体として用いた場合には目的物を得ることができた。しかしながら、[11C]TP合成の再現性があまりよくないこと、合成時間が比較的長いことから、[11C]CN-を用いたジスルフィド結合の開裂反応による[11C]TPの合成を検討した。その結果、[11C]SCN-による合成と比較して、合成時間の短縮と放射化学的収率の向上が認められ、再現よく[11C]TPを合成することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究では、候補化合物として血液脳関門を通過し、脳内で[11C]チオシアン酸イオン([11C]SCN-)を遊離することが期待される6-thiocyanatopurine誘導体を設計し、11C標識合成を行った。当初の計画どおり、[11C]候補化合物を再現よく得ることができたので、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、本研究はおおむね計画通りに進み、[11C]SCN-および[11C]候補化合物を得ることに成功した。今後は、[11C]候補化合物について、マウス脳ホモジネート中でのグルタチオンとの反応速度を評価する。グルタチオンとの反応性が低い場合は、置換基を変えることにより反応性を高めた新たな6-[11C]thiocyanatopurine誘導体を合成し、反応速度を評価する。[11C]候補化合物が十分な反応性を有する場合、脳移行性および脳内化学形の分析を行い、脳内に効率よく[11C]SCN-を送達できるかどうかを確認する。また、並行して、[11C]SCN-の血液から脳への脳移行性を調べる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、6-[11C]thiocyanatopurine誘導体を得るために、種々の反応条件や精製条件を検討する予定であったが、比較的スムーズに研究が進んだので、合成試薬や分離精製にかかる物品費が予定より少なく済んだため、次年度使用額が生じた。
次年度研究費は主に物品費として、動物試験に関わる動物投与試薬や動物などの購入を計画している。また、6-[11C]thiocyanatopurine誘導体がプローブの条件を満たさない場合、[11C]候補化合物を再設計し、合成するので、そのための合成用試薬や実験器具を購入する。その他、学会発表、英文校正や論文投稿などに使用する予定である。
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