ウィリアムス症候群は、7番染色体長腕7q11.23領域の片側にある約28個の遺伝子の欠失によって生じ、特徴的な顔貌・心血管や内分泌異常・知的障害・過度な社交性などの様々な症状を呈する。しかし、多彩な症状の原因の大部分は未解明であり、欠失領域にある遺伝子の解析だけでは難しいことがわかってきた。 我々はウィリアムス症候群について、遺伝子発現異常に着目した研究を進めてきた。その結果、欠失領域以外の複数の遺伝子が病態に関与すること(Kimura R et al. J Child Psychol Psychiatry 2019)や、それら遺伝子群の異常によって、ウィリアムス症候群にはBurkittリンパ腫発症リスクがあること(Kimura R et al. Front. Genet. 2018)を報告してきた。このようにウィリアムス症候群では、ゲノム全域での遺伝子の発現変動が病態に関わるという知見が集まりつつある。しかし、その機序は不明であり、特徴的な社会行動異常に関わる遺伝子は明らかになっていない。 遺伝子発現の制御に関わる重要な因子の一つとして、DNAメチル化が知られている。DNAメチル化は社会性行動だけでなく、自閉スペクトラム症などの発達障害の病態に関わっていることが知られている。そこで本研究では、患者検体を用いてDNAメチル化変化を探索し、これまでの研究手法を発展させたネットワーク解析を適応し、社会行動異常に関わる遺伝子を同定する。さらにゲノム編集技術を用いて変異ゼブラフィッシュを作成し、行動解析にて社会性を評価する。 本研究期間において、申請者は社会性が相反する自閉スペクトラム症とウィリアムズ症候群を対象に、患者家族会等の協力を得た臨床検体を用いた国際共同研究を推進した。その結果、自閉スペクトラム症やウィリアムズ症候群ではDNAメチル化異常が関与していることを見出した。その成果は国際誌に掲載され、国内基幹学会のシンポジウムに採択されるなど、多くの成果を挙げることができた。
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