研究課題/領域番号 |
19K08254
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
窪田 寿彦 佐賀大学, 医学部, 助教 (80377746)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | てんかん / 細胞間情報伝達 / GABA作動性神経 / 興奮性神経 |
研究実績の概要 |
本研究は、難治性てんかんにおける中枢の神経細胞間情報伝達の病態変化を詳細に解析する計画である。難治性てんかんの一種であるドラベ症候群は、乳児期に発症する難治性のてんかんとして知られている。その発症には、中枢神経系に発現している Na+ チャネルの1つである Nav1.1 のαサブユニットをコードする SCN1A 遺伝子の変異が関与していると考えられている。その結果、中枢神経細胞に発現している Na+ チャネルに機能不全が起こり、てんかんを発症すると考えられている。これまでの経緯によりドラベ症候群では、中枢神経系における GABA 作動性神経系においてNa+ チャネルの機能不全が起こっている事が示唆されている。一方、中枢神経系における神経細胞間情報伝達系が病態発現に伴い、どの様に病態変化しているのかは不明である。 本年度は、初年度に引き続きマウスの脳を使用した電気生理学的解析を神経細胞間情報伝達に着目して行った。解析は、興奮性神経伝達並びに抑制性神経伝達の発達に伴う情報伝達変化を自発的神経伝達を主体に解析を行い、現在も継続中である。加えて、共同研究者らがドラベ患者から作製した iPS 神経細胞を用い、細胞間情報伝達に関する電気生理学的解析を行った。興奮性神経細胞ならびに抑制性神経細胞の iPS 細胞を作製後、異なる培養日数の細胞を用い細胞間情報伝達に関して解析を行った。これらは、現在も継続中である。細胞間情報伝達の病態変化について、更に詳細な解析を行う目的でイメージングを用いた解析を行い、現在も引き続き解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
申請に基づく本年度の研究計画では、ドラベ症候群における中枢神経細胞間情報伝達の解析や抑制性シナプスにおける神経伝達物質の放出能に関する解析を計画していた。研究計画では、ドラベ症候群由来の iPS 神経細胞を主体とした実験であった。iPS 細胞を用いた解析は、iPS 細胞の特性に基づき他大学(福岡大学)との共同研究として行っている。本申請研究もコロナ禍の影響を大きく受けており、共同研究先における実験活動も制限されるなど多方面で大きく影響を受けている。その中、培養細胞から得られる結果を解析するには、生理学的環境がより生体条件に近い環境下での解析も重要な情報であると考え、マウスの脳より作成した脳スライス標本を用いた電気生理学的解析を前年度より継続して行っている。マウスを用いた電気生理学的解析には、神経細胞間情報伝達を興奮性神経ならびに抑制性神経に薬理学的に分類したうえで自発活動に基づく神経細胞間情報伝達と電気刺激により惹起される神経細胞間情報伝達などの解析を行うなどの実験の複雑さに加え、遺伝子改変マウスの繁殖の困難さなども加わり、解析には時間を要している。また本年度の研究計画には、FM 1-43の蛍光色素を用いた抑制性神経伝達物質の放出能の病態変化の解析を計画している。現在、実験遂行に向けて各種の実験を継続中である。いずれの実験計画においても、他施設との共同研究を行う上でコロナ禍の影響を大きく受けており、申請時のタイムテーブルより全体的に遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、難治性てんかんのドラベ症候群における中枢神経細胞間の情報伝達の病態変化を詳細に解明する事である。目的遂行には、病態生理変化に伴う中枢神経細胞の情報伝達の変化を多方面から解析することが不可欠である。まずは、現在継続中である電気生理学的手法を用いた神経細胞間情報伝達機構の変化に関する実験を精力的に行い、神経細胞間情報伝達が病態生理学的変化に伴いどの様に影響を受けるのかを明らかにしていく。本年度は、病態生理変化と中枢神経細胞の神経伝達物質放出態変化の関係を、イメージング手法を用いて明らかにしていくことを計画している。この実験には、共同研究者との連携が不可欠なため、目的遂行に向けた各種の実験を効率よく推進していく。これらの結果を詳細に解析し統合することにより、中枢神経細胞間の情報伝達が病態変化によりどの様な影響を受けるのかを明らかにしていくことが可能と考えられる。神経伝達物質の放出能解析には、実験結果を確実にする目的で電気生理学的解析も並行して行う。加えて異なる週齢の標本や培養日数による差異も、病態生理学的変化が中枢神経系の成長・発達対する影響を明らかにするには検討すべき課題である。共同研究による目的遂行は、コロナ禍による影響を受けやすい。また目的遂行のための実験の複雑化により、申請時に作成したタイムテーブルより遅れが生じている。これらの問題点を再度確認し、申請時に作成したタイムテーブルより遅れている実験計画の改善並びに精力的な推進が必要である。また、今後の円滑な課題遂行を目的として、実験系を効率的よくまとめ実験全体の効率化を図っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により学会がオンライン開催になったため、次年度使用額が生じた。本申請研究は、他施設との共同研究を行っており、サンプルの安定的な供給が研究を効率的に遂行するための重要な課題の一つとなっている。その課題を克服する為、申請者が所属する施設での実験開始を予定しており、次年度使用額をその立ち上げに必要な物品購入費として使用する予定である。この使用目的転換により、本申請研究の目的遂行の為の実験を効率的に推進する事が可能になると考える。
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