ヒト腫瘍の発生には一般に複数のゲノム遺伝子変異の蓄積を必要とするが、悪性ラブドイド腫瘍(MRT)は、これまでのがんゲノム解析からは、SNF5遺伝子の単一変異によって発症するとされる。近年のDNAメチル化解析から、予後層別化のうえでTYR、SHH、そしてMYCと呼ばれる3つのsubgroupに分類することが提唱され、MYC高発現のメカニズム追究による病態の解明が期待されている。 転写因子RUNX1はMYCのエンハンサー機能に影響し、同時にSWI/SNF複合体と機能協調することを我々は明らかにしてきた。またSNF5の欠損は不完全なSWI/SNF複合体(SWI/SNFΔ複合体)を形成することによって、スーパーエンハンサーを介する遺伝子発現制御の異常をもたらす。そこで当研究では、SWI/SNFΔ複合体がRUNX1作用へ干渉することによってMYCの発現異常をきたすのではないかという仮説をたてて検討を進めた。 MRT細胞株である、A204、TTC642、およびTTC549は、いずれもMYC subgroupに分類される。そこで、これらのMRT細胞株を用い、MYC遺伝子の発現に及ぼすSNF5やRUNX1の影響を検討した。その結果、SNF5とRUNX1の共発現によって、MYC の発現抑制がもたらされることを見出した。他方、SNF5やRUNX1単独では、MYC遺伝子の発現に影響しなかった。現在、SNF発現細胞において、ゲノム編集によってSNF5をノックアウトした場合でも同様の影響が確認できるかどうか検討を進めている。 このように、RUNX1はSNF5の存在下でMYC遺伝子の発現を制御している可能性がある。MYC遺伝子のエンハンサー領域でのRUNX1とSWI/SNF複合体の機能協調メカニズムの解明とともに、MYC subgroupの形成のメカニズム解明に向けた研究を展開してゆきたい。
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