C57BL/6の野生型(WT)マウスとチオレドキシン-1(TRX)-Tgマウスを、日齢7から5日間、21%酸素または75%酸素に曝露した。以降は室内空気下で回復させ、日齢12、17、28にマウス網膜の表現型を評価した。 室内空気下で飼育したWTマウスでは、正常発達した網膜が観察されたが、高濃度酸素曝露後早期(血管退行期)のWTマウスでは、網膜内の無血管野と新生血管による結節面積の増加が認められ、網膜血管の正常発達が損なわれた。TRX-Tgマウスでは、高濃度酸素曝露後早期にWT網膜で認められた無血管野および新生血管による結節面積の増加が軽減された。高濃度酸素曝露後早期のWTマウス網膜では、血管新生因子VEGF及びCxcl2の遺伝子発現低下と炎症性サイトカインIL-6の遺伝子発現上昇を認めたが、TRX-Tgマウス網膜ではこれらの遺伝子発現変化は認めなかった。一方、高濃度酸素曝露からの回復期(新生血管形成期)では、TRX-Tgマウスでは、WTマウス網膜内で認めた異常な新生血管形成および血管透過性の亢進を抑制した。さらに、高濃度酸素曝露後回復期にWTマウス網膜で認めたHO-1及びAngpt1の遺伝子発現減少も、TRX-Tgマウス網膜では認めなかった。 以上のことから、過剰発現したTRXは、炎症性サイトカイン及び血管新生因子の遺伝子発現を調節することにより、高濃度酸素曝露後、血管退行期にマウス網膜内で認めた無血管野及び新生血管による結節面積の増加、新生血管形成期に認めた異常新生血管形成及び血管透過性亢進等、高濃度酸素性網膜症の網膜内表現型を軽減させることが示唆された。
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