研究実績の概要 |
抑肝散は7種類の生薬を含有し、多数の有効成分を含有する。そのため、抑肝散に含まれる化合物の中には神経分化に対し促進作用と逆に抑制効果を持つ化合物が含まれると考えられる。抑肝散に含まれるセンキュウ、チョウトウコウ、ソウジュツ、ブクリョウ、トウキ、サイコおよびカンゾウより、生薬の一味抜きのエキス計7種類をそれぞれ作製し、それらの作用をビタミンA存在下で神経分化が誘導される胎性がん細胞のP19細胞をモデル細胞として用いて検討した。結果として、抑肝散と一味抜き成分でその細胞の神経分化誘導させることができた。すなわちカンゾウ抜きとサイコ抜きの成分にて、NeuNの神経マーカーを測定して、神経分化誘導作用の減弱効果を見出した。逆にカンゾウの成分であるグリチルリチンにて、神経分化誘導作用が増強した。ただサイコサポニンの成分(a, b1, b2等)に焦点を当てて効果を検証したが、影響はなかった。さらに神経分化誘導作用の細胞内シグナル伝達経路(GSK3b, ERK, mTOR等)を中心とした作用機構を解析することに着手し、GSK3bのシグナル分子に影響を与えることを見出している。 またゲノム編集法にて作製し得たcdkl5ノックアウト(KO)細胞を使用し、抑肝散の効果を検証したが、効果がある細胞系とそうでない細胞系の相反するデータが生じた。そのため、in vivoのcdkl5 KOマウスにて抑肝散の効果を確認することにした。まず予備実験で、抑肝散をマウスに経管投与後抑肝散濃度を測定することで、確実にその濃度が上昇することを確認した。さらにcdkl5ノックアウトマウスにこの生薬を投与し、体重がやや増加が観察された以外、一般的な測定系に影響はなかった。しかし行動解析を実施したところ、明暗領域での移動距離の変動、恐怖記憶の改善等にやや影響を与える結果を得た。
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