研究課題/領域番号 |
19K08265
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
鈴木 禎史 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第二部, リサーチフェロー (70465003)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | グリア変性 / 病態解析 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、PLP1遺伝子重複によって起こる先天性大脳白質形成不全症の代表的なPelizaeus-Merzbacher病(PMD)の新規病態解明を行うことである。先天性大脳白質形成不全症は髄鞘の低形成を主体とする遺伝性の疾患群で、近年PLP1をはじめ11の原因遺伝子が同定されてきたが、未だ発症メカニズムが不明であり、根本治療法が確立されていない小児の難治性神経疾患である。その代表的疾患であるPMDは、髄鞘膜蛋白質をコードするPLP1遺伝子の異常で起こるX連鎖性劣性疾患である。これまでに、PLP1遺伝子のゲノム重複が最も頻度の高い(50~70%)PMD疾患原因変異であり、患者ごとに重複ゲノム領域の大きさや範囲が異なるといった特徴がしめされてきたが、PLP1ゲノム重複がもたらすPLP1コピー数増加による野生型蛋白質の過剰発現が、なぜ重篤な髄鞘形成不全を引き起こすのか、その分子・細胞病態については依然不明であった。 そこで本研究では、PLP1重複変異を有する患者から樹立した疾患特異的iPS細胞を用いて、病態モデルの作製、PLP1過剰発現がもたらすオリゴデンドロサイト(OLs)の分子・細胞病態を解明し、その病態機序が髄鞘化に及ぼす影響を、神経細胞との共培養による軸索‐髄鞘の機能的解析から検証する。 まず、OLsへの分化過程でどのような表現型が生じるか、健常人-iPS細胞から誘導した分化細胞と比較して検証した。オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPCs)において、分化誘導効率の低下、突起の長さや分岐数の低下を示し、細胞増殖の過程で細胞間密度が高くなることを見出した。次に、OPCsからOLs分化誘導の早期の段階で、ミトコンドリア膜電位の低下、細胞内活性酸素(ROS)の上昇を認めた。さらに、一部の細胞で細胞内コレステロールの局所蓄積が起きていることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
安定したオリゴデンドロサイト(OLs)への最終分化誘導法の確立に至っていないため、OLsの表現型解析についてやや遅れている。 髄鞘-軸索解析を行うために、iPS細胞から誘導したオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPCs)と神経細胞の共培養系を構築しているところである。本研究では、PLP1重複が及ぼす病態について軸索側からも検証するのだが、PMD-iPS細胞から誘導した神経細胞の継続培養がうまくいかないため、PMD神経誘導を用いた髄鞘化解析に遅れが出ている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、オリゴデンドロサイト(OLs)への最終分化誘導法の検討を重ね、OLsの表現型解析を進める。研究計画書の通り、PMD-iPS細胞から分化誘導した細胞における細胞自律的な細胞病態を解明するために、活性酸素(ROS)上昇に焦点を当てた網羅的表現型解析を行っていく。さらに、PLP1遺伝子重複が及ぼす髄鞘化や軸索への影響を、神経細胞との共培養によって明らかにする計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
オリゴデンドロサイト(OLs)への最終分化誘導の検討に時間を割き、OLsの表現型解析が十分にできなかったため、また、PMD-iPS細胞から誘導した神経細胞の継続培養の検討のため、髄鞘化解析が不十分だったことから、試薬の購入が予定より減少した。 次年度は、予定していた解析に加えて、前年度の不十分だった解析について、解析を推し進めていく。さらに、マイクロアレイ等を用いた網羅的解析を行っていく。
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