研究実績の概要 |
中枢神経系のエネルギー源であるブドウ糖は、血液脳関門ではグルコーストランスポーター1(GLUT1)を介して受動的に輸送される。GLUT1欠損症は、GLUT1遺伝子SLC2A1 (1p34.2)のハプロ不全により発症し、ブドウ糖が脳内に取り込まれないことにより生じる代謝性脳症である。中枢神経系でのエネルギー不足が慢性的に持続することにより、てんかん、知的障害、運動障害など多彩な神経症状が出現する。有病率は、10万人あたり2人前後である。本症の唯一の治療法は、ブドウ糖に代わるエネルギー源を供給するケトン食療法であるが、てんかん発作を軽減する効果は認められたが、知的障害や運動障害には有効性を示さなかった。また、ケトン食療法を長期間にわたり継続することは容易ではなく、小児の成長へ及ぼす長期的な影響についても不明な点が多い。 GLUT1遺伝子のホモ接合性欠損は胎生致死となり、ヘテロ接合性欠損では本症を発症する。一方、GLUT1遺伝子を過剰発現させたマウスでは糖尿病様血管障害が観察されており、GLUT1遺伝子の発現量は厳密に制御される必要がある。そこで、我々は安全性と体内薬物動態についての知見が蓄積している既承認薬の中からGLUT1の発現増加を示す薬物を探索することにした。レポーター遺伝子安定発現細胞株(ヒトGLUT1遺伝子の発現調節領域の下流にルシフェラーゼ遺伝子を連結させたレポーター遺伝子を安定発現するHEK293細胞)を樹立し、FDA承認済み薬物ライブラリー 2055品目(Medchemexpress社, NJ, USA)からスクリーニングを行い、臨床使用濃度でGLUT1遺伝子プロモーター活性を上昇させる3薬剤(プロテアソーム阻害剤 Bortezomin, IxazomibとHDAC阻害剤Panobinostat)を同定した。今後、臨床応用を目指して有効性の確認を行う。
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