研究課題
本研究計画は副腎白質ジストロフィーの発症機構を解明し、将来的な発症抑制薬の開発に繋げることを目的として行った。本疾患は中枢神経系におけるペルオキシソーム膜ABCD1の機能欠損による極長鎖脂肪酸の異常蓄積が炎症性の脱髄を引き起こす主な原因と考えられている。しかし、Abcd1欠損マウスを用いた骨髄移植実験の解析から、本疾患の脳での炎症反応は極長鎖脂肪酸の蓄積だけではなく、コレステロール代謝異常も関与している可能性が示唆された。本研究計画では炎症反応に関わるAbcd1欠損細胞を使用してコレステロール代謝と炎症応答との関連性について解析した。Abcd1欠損マウスから調製したアストロサイトやミクログリアは、野生型に比べコレステロールエステル量および脂肪滴の増加が観察される。Abcd1欠損アストロサイトはリポ多糖(LPS)処理に対して、野生型に比べ炎症性サイトカインを多く産生することを明らかにした。一方、Abcd1欠損ミクログリアについて、LPS及びnigericin処理を行い、NLRP3インフラマソームを活性化した結果、IL-1bの産生量が野生型に比べ高く、より活性化された状態であることを明らかにした。従って、これらのグリア細胞のコレステロール代謝異常が炎症性脱髄反応と関連している可能性が示唆された。一方、Abcd1欠損CD4陽性T細胞をTh1エフェクター細胞に分化誘導したところ、IFNgの産生量が野生型に比べて高く、逆にIL-10の産生量は低いことが確認された。これはHMGCoA還元酵素阻害剤により正常化した。このことからエフェクター細胞への分極化の異常がコレステロール代謝障害と関連していることが示唆された。これらの結果は、ABCD1機能欠損によるコレステロール代謝異常と炎症応答との関連性を解析する上で重要な知見となり、将来的な本疾患の治療薬開発に貢献できる。
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