研究課題/領域番号 |
19K08278
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
津下 充 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 講師 (80625004)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 脳血管内皮細胞 / 炎症性サイトカイン / HMGB-1 / 血管透過性 / タイトジャンクション / ストレスファイバー / IL-6 / VEカドヘリン |
研究実績の概要 |
腫瘍壊死因子(TNF-α)によるヒト初代脳血管内皮細胞の血管透過性亢進をHigh mobility group box-1(HMGB-1)モノクローナル抗体が抑制しうるか検討した。初代ヒト脳血管内皮細胞においてHMGB-1の受容体であるRAGEやTLR4が存在することを免疫染色で確認した。次にTNF-α(10 ng/ml、24時間)刺激によって上清中のHMGB-1濃度が有意に増加することを明らかにした。TNF-α(10 ng/ml、24時間)、抗HMGB-1抗体(100μg/ml、24時間)の添加によって細胞生存率に有意な変化は認めなかった。TNF-α刺激後に血管透過性は有意に亢進し、抗HMGB-1抗体の存在下で有意に血管透過性亢進は抑制された。TNF-α刺激によって脳血管内皮細胞は紡錘状に変形し、ファロイジン染色でアクチンストレスファイバーの形成の増加を認めた。脳血管内皮細胞間のタイトジャンクション分子の1つであるVEカドヘリンはTNF-αの刺激によって減少し細胞間間隙の形成が増加した。抗HMGB-1抗体の存在下では、ストレスファイバーの増加と細胞の紡錘化は抑制されなかったが、VEカドヘリンの減少が抑制され、細胞間間隙も減少した。TNF-α刺激によって増加した上清中のIL-6濃度は抗HMGB-1抗体の存在下で有意に減少した。同時にIL-6遺伝子発現量も有意に減少した。白血球接着能はTNF-α刺激により増加し、抗HMGB-1抗体存在下で有意に抑制された。白血球接着に関わるICAM-1の遺伝子発現は抗HMGB-1抗体存在下で減少を認めた。現在、上記内容を論文投稿中である。 熱性けいれん重積を認めた児を対象とした多施設共同臨床研究を倫理審査申請し承認を得た後に、2020年度より血液検体の採取を開始している。現在半年間で30例登録があり順調である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画における1つの目標であるヒト脳血管内皮細胞に対するHMGB-1モノクローナル抗体の透過性抑制効果について明らかにすることができた。現在、論文投稿中である。ミクログリア共培養システムの構築を目指して進めている。 インフルエンザ脳症モデルマウスを用いた抗HMGB-1抗体の有効性と脳血管透過性の亢進の検討については、インフルエンザ脳症モデルマウスを確立したため2021年度から開始する予定である。 小児熱性けいれん重積患者の末梢血単核球を用いたインフルエンザ抗原+HMGB-1刺激によるサイトカイン産生能の変化の検討については、対象となる熱性けいれん重積既往のある小児患者数が比較的少数であったため、熱性けいれん重積を認めた小児を対象とした多施設共同臨床研究を倫理審査申請し承認後から開始して血液検体・データを収集している。
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今後の研究の推進方策 |
HMGB-1モノクローナル抗体によるヒト脳血管内皮細胞の透過性亢進の抑制のメカニズムについてさらに詳細な検討を継続する。さらにヒトミクログリア細胞との共培養システムの確立を目指していく。 並行して、インフルエンザ脳症モデルマウスに対するHMGB-1モノクローナル抗体の投与と、脳血管透過性亢進の抑制のメカニズムについて、確立したインフルエンザ脳症モデルマウスを用いて検証していく。 ヒト末梢血単核球を用いた抗HMGB-1抗体の有効性の検討については対象となる熱性けいれん重積既往のある小児患者の症例数が比較的少数であったため、新規に熱性けいれん重積を認めた小児を対象と多施設共同臨床研究を倫理審査の承認を受け、2020年度より開始し検体・データを収集している。収集した検体を用いて、自然免疫関連遺伝子発現解析・血清サイトカイン解析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度の研究は細胞実験に必要な試薬を購入し、ヒトを対象とした臨床研究の準備を行ったため、当初の見積額よりも安価に実施することができたため、次年度使用額が生じた。 しかし、2021年度は動物実験のための動物や器具の購入が必要であり、また、ヒト由来血液検体を用いた遺伝子発現解析も行うため、試薬購入の費用を要することが判明している。次年度使用額を有効かつ計画的に使用する予定である。
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