研究課題/領域番号 |
19K08290
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研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
白石 公 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, オープンイノベーションセンター・教育推進部, 部長 (80295659)
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研究分担者 |
白井 学 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, オープンイノベーションセンター, 室長 (70294121)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 僧帽弁閉鎖不全 / 腱索断裂 / 急性心不全 / 抗SSA抗体 / 川崎病 / 心内膜炎 |
研究実績の概要 |
乳児特発性僧帽弁腱索断裂における僧帽弁および腱索の心内膜には、単核球を中心とした炎症細胞浸潤が認められ(Shiraishi et al., Circulation 2014;130:1053)、病因としてウイルス感染、川崎病、母親由来の抗SSA抗体などが示唆されている。本疾患は発症が年間10数例と希少で、また搬送直後に手術に向かうために、病因解明のための新鮮サンプルの収集が困難である。そこで我々は、過去の病理組織標本から最新の遺伝子工学的手法を駆使して、本疾患の病態と病因解明を試みた。[対象と方法]僧帽弁置換した腱索断裂乳児4例(断裂群:生後3-6ヶ月(中央値4ヶ月)、川崎病およびSSA抗体陽性例を除く)と弁置換した先天性心疾患2例(対照群:生後11および13ヶ月)のパラフィン包埋された僧帽弁および腱索標本からRNAを抽出し、トランスクリプトームおよびメタトランスクリプトーム解析を行った。一部の切片は高感度ISH法を併用した。[結果]病態解明を目的としたトランスクリプトーム解析(RNAseq)では、断裂群で対照群に比べて1,192の遺伝子に有意な変化(x10以上or 0.1以下)が認められ、免疫応答を主体としたシグナル伝達系の亢進が確認された。病原微生物の検索を目的としたメタトランスクリプトーム解析では、断裂群4例中2例に小児に一般的な感染症を引き起こすDNA virus Xに高い相補性が検出された。高感度ISH法(RNAscope)でも、断裂群の組織片に心内膜を主体とするvirus XのRNAシグナルが確認された。[考察]更なる追試が必要であるが、本疾患では僧帽弁および腱索に何らかの炎症と免疫応答が存在すること、引き金としてvirus Xが関与することが示唆された。今後は患者の入院時の血液や咽頭拭い液などの新鮮なサンプルを解析し、virus Xの関与を検証する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
過去のFFPE標本から得られた薄切切片を少数用いてRNAを抽出して網羅的解析にかけることは大変難しい作業ではあるが、これらの作業を、分子細胞生物学の専門家である白井学博士と共に実行し、既知のウイルスが関与していることが示唆されるまでに至っている。この先さらに検証が必要ではあるが、全体として進捗は概ね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、他施設に依頼して組織標本を集めてNを増やす努力を行うとともに、新たに発症する患者の入院時の血液や咽頭拭い液などの新鮮なサンプルを入手解析し、virus Xの関与を検証する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度に新たに入手した検体がなかったので、メタゲノムやメタトランスクリプトーム解析を実施しなかったため、予算をすべて使用するに至らなかった。 令和3年度は、他施設からも検体を取り寄せてこれらの網羅的解析を行うことにより、予算を執行する予定である。
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