研究実績の概要 |
乳児特発性僧帽弁腱索断裂とは、生来健康である乳児に数日の感冒様症状に引き続き突然に僧帽弁の腱索が断裂し、急速に呼吸循環不全に陥る疾患である。本疾患における僧帽弁および腱索の心内膜には、単核球を中心とした炎症細胞浸潤が認められ(Shiraishi et al., Circulation 2014;130:1053)、病因としてウイルス感染、川崎病、母親由来の抗SSA抗体などが示唆されている。近年確立したパラフィン切片からRNAを抽出する方法により、患者の僧帽弁および腱索組織から、トランスクリプトーム解析により腱索組織の遺伝子発現を把握するとともに、メタゲノム解析により原因感染源を検索した。 [対象と方法]僧帽弁置換した腱索断裂乳児4例(断裂群:生後3-6ヶ月(中央値4ヶ月)、川崎病およびSSA抗体陽性例を除く)と弁置換した先天性心疾患2例(対照群:生後11および13ヶ月)のパラフィン包埋された僧帽弁および腱索標本からRNAを抽出し、トランスクリプトームおよびメタトランスクリプトーム解析を行った。一部の切片は高感度ISH法を併用した。 [結果]病態解明を目的としたトランスクリプトーム解析(RNAseq)では、断裂群で対照群に比べて1,192の遺伝子に有意な変化(x10以上or 0.1以下)が認められ、免疫応答を主体としたシグナル伝達の亢進が確認された。メタトランスクリプトーム解析では、断裂群4例中2例に小児に感染症を引き起こすDNA virus Xに高い相補性が検出された。高感度ISH法(RNAscope)では、上記症例以外においても心内膜を主体とするvirus XのRNAシグナルが確認された。 [考察]本疾患では僧帽弁および腱索に何らかの炎症と免疫応答が存在すること、引き金としてvirus Xが関与することが示唆された。
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