研究課題
本研究課題の目的は、先天性疾患である二分脊椎と口蓋裂疾患の発症メカニズムが同一の形成異常、つまり「上皮癒合の破綻」に起因するものではないか、という仮説を検証するものである。そこで前年度(2019年度)、マウスGrainyhead-like3 (Grhl3)遺伝子欠損マウスにおいて口蓋・口唇裂を発症について表現型解析を試みた。結果、Grhl3遺伝子ホモ欠損マウス胎児では二分脊椎を100%発症するのに対し、口唇口蓋裂の発症は全く見られなかった。そこで、今年度はGrhl3遺伝子マウスに、Vangl2遺伝子欠損マウス (PCP経路関連分子)とbeta-catenin遺伝子欠損マウス (カノニカルWnt経路の最下流因子)とを交配させダブル変異マウスを作製し、これらダブル変異マウスにおいて口唇口蓋裂の発症が見られるか検討を行うことにした。ちなみに、我々はGrhl3遺伝子は、未分化性外胚葉細胞から表皮細胞への分化過程においてbeta-cateninと相互作用すること、また表皮細胞の細胞動態(特に弾性)に関してはPCP経路と協調的に働くことを報告している (Kimjura-Yoshida, C., Mochida, K et al., 2015; 2018)。そこで、これら二重変異マウスの表現型解析を行うことで、発生過程におけるGrhl3因子の上皮癒合に関わるシグナリングの同定ができると考えた。ちなみにGrhl3遺伝子欠損マウスには、組換えタンパクであるCreリコンビナーゼタンパクが挿入されており、Flox挿入マウスと交配させることで、Grhl3遺伝子陽性表皮細胞のみを欠損させることも可能である。そこで現在、beta-cateninヌル欠損マウス、b-catenin floxマウス、Vangl2遺伝子欠損マウスの3種類変異マウスと、Grhl3遺伝子欠損マウスとを交配させ、二重変異マウスを得りことができた。
2: おおむね順調に進展している
今年度は新たにダブル変異マウスの作製を試みており、3種類(beta-catenin flox;Grhl3, beta-catenin null; Grhl3, Vangl2;Grhl3 変異)の二重変異マウスの作製に成功している。
今後(R3年度)は、これら作製した3種類の二重変異マウスを用いて、二分脊椎や口蓋裂の発症有無、頻度を統計的に解析する。またいずれかのダブル変異マウスで発症が確認された場合、重篤度を検証するための組織学解析や、マーカー解析も並行して行う予定である。
今年度は新型コロナの影響もあって、学会参加や共同研究の打ち合わせが出来なかったことが次年度の繰り越し金が生じた理由である。次年度以降に新型コロナの感染が収まったら、積極的に学会などに参加するため、予算を執行すると考えられる。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
Cell Report.
巻: 19 ページ: 107637
10.1016/j.celrep.2020.107637.