黄色ブドウ球菌のスーパー抗原性外毒素toxic shock syndrome (TSS) toxin-1(TSST-1)により成人はTSSを発症し重篤化するのに対し新生児は新生児TSS様発疹症(NTED)として軽症で自然軽快する。 本研究の目的はこの違いから、新生児免疫寛容の細胞分子学的機序を明らかにするもので、(1) 新生児免疫寛容への制御性T細胞の関与と関連する遺伝子発現調節の解明、(2)早産児の免疫系調節の弱点の解明、(3)在胎週数別の免疫免疫制御機構の解明を目標にあげた。 結果として以下の様な事象を明らかにした。(1)Naive CD4+ T細胞をTSST-1で芽球化し二次刺激を行うと臍帯血T細胞でIL-2産生が有意に減少する。(2)単核球をTSST-1で刺激すると制御性T細胞のマスター転写因子であるFoxP3の発現が臍帯血で有意に高値となる。(3)RNA-seqを用い二次刺激に対する影響を解析すると臍帯血はIL2遺伝子の発現が低下しFoxP3を始め制御性T細胞関連の遺伝子発現が有意に亢進する。(4)FoxP3の上流にあるIKFZ2(Helios)遺伝子は臍帯血で常に高発現である。(5)遺伝子セットエンリッチメント解析で、臍帯血は胎児の遺伝子発現と共通したパターンで、より制御性T細胞への分化傾向がある。 一方当初予定していた早産児の免疫応答については細胞凍結の影響確認が必要で、今回の研究には間に合わなかった。しかし継続研究として現在解析を行っている。また早産児の免疫応答の特徴の研究の一つとして、早産児の生後の血清サイトカインプロファイル解析を40名で行い、炎症性サイトカインおよびIL5の持続的高値を認めた。 これらの結果は臍帯血移植や早産児の診療において大いに役立つと考えられる。結果は大学院生武藤浩司氏の学位論文として公表され、今後学会や論文での発表が予定されている。
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