研究実績の概要 |
ヒトパレコウイルス3型(PeV-A3)は、多くの場合、軽微な胃腸炎や上・下気道炎などをきたす乳幼児感染症の原因ウイルスである。しかしながら、PeV-A3が新生児あるいは早期乳児に感染すると、敗血症様症候群、脳脊髄膜炎などの重症感染症を発症し、4カ月未満児の入院率は7.5人/1,000人である。PeV-A3は腸管上皮もしくは気道上皮細胞などに感染すると考えられているが、感染機構、宿主細胞域の全体像、感染の組織特異性および重症感染症を引き起こす分子機構は不明である。 本研究ではPeV-A3のウイルス受容体を同定することによって、宿主細胞域や組織特異性を明らかにする。更に、同定した受容体を発現する動物モデルを樹立し、個体レベルでのPeV-A3感染症の分子機構を解析することにより、新生児において重症化する病態の全容解明を目指している。 ヒト由来PeV-A3高感受性細胞(HuTu-80)とヒト遺伝子をターゲットとするCRISPR/Cas9ライブラリーを用いてゲノムワイドなランダムノックアウトスクリーニングを実施し、PeV-A3を含む5種類のPeV-A(PeV-A1, A2, A4, A5, A6)に共通する受容体として、MYADM(myeloid-associated differentiation marker)を同定した。MYADMは8回膜貫通型タンパク質で、4つの細胞外領域がある。ヒトとマウスのMYADMの第4細胞外領域のみを置換したキメラ蛋白質を作製し、ヒトMYADMの第4細胞外領域がPeV-A3の感染に必須であることが示された。さらに、PeV-A3のVP0蛋白質がMYADMの第4細胞外領域に結合することにより、細胞に感染することが明らかとなった。
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