研究課題
再生不良性貧血(Aplastic anemia; AA)は、末梢血での汎血球減少と骨髄の低形成を特徴とする疾患群である。造血幹細胞に対する自己免疫反応が原因で起こると考えられているが、病態の解明は十分ではない。我々は、小児AA患者41症例の全エクソーム解析を通じて、新規遺伝子Xの体細胞変異を2例で同定した。さらに、小児AA140症例についてPyro sequencing法を実施し、8症例(6%)で同様に遺伝子Xの変異を確認した。遺伝子Xはがん悪性化に関与する遺伝子の制御因子として知られているが、血液疾患との関連性についてはこれまでに報告がない。我々は遺伝子Xの変異マウスモデルを用いて、AAにおける新規遺伝子Xの変異アリルの機能的意義を検討した。遺伝子Xの変異マウスおよび野生型マウス由来の骨髄細胞を採取し、MethoCult M3434を用いたコロニーアッセイを実施した。10日後にアッセイで得られたCFU-GM、BFU-Eをカウントしたが、両者でコロニー増殖能に差異を認めなかった。さらに、遺伝子Xの変異マウスおよび野生型マウス由来の骨髄細胞からRNAを抽出して、RNAシーケンスにより転写産物の発現を比較検討した。遺伝子Xの変異マウスで優位に発現している遺伝子のうち、造血に関与するものはみられなかった。また、AA患者の一部では、T細胞からの免疫攻撃から逃れるためにHLAの欠失がみられることが知られている。遺伝子Xの変異マウス、野生型マウス由来の骨髄におけるMHC(Major Histocompatibility Antigen Complex)の欠失についてFACSCaliberを用いて比較検討したが、いずれもMHCの欠失を認めなかった。
3: やや遅れている
コロニーアッセイ、RNAシーケンス、FACSCaliberによるMHC解析を実施したが、遺伝子XがAAの病態に与える影響については未解明である。
X遺伝子変異マウスの増殖優位性を示すために骨髄移植実験を行う。X遺伝子変異マウスモデルはB6Nマウス由来である。本実験では、X遺伝子変異マウス、野生型マウスをドナーとして、BALB/cマウスに競合移植を実施する。AAの病態であるT細胞からの免疫学的攻撃を再現するために、GVHDモデル移植実験を参考にして、BALB/c由来の脾臓(T細胞)を同時に移植する。T細胞からの免疫回避の機構が働けば、X遺伝子変異マウス由来の骨髄に増殖有意性が働くと仮説し、キメリズム解析による増殖能の比較を実施する。
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British Journal of Haematology
巻: 187 ページ: 227~237
10.1111/bjh.16055