研究課題
小児期には急性脳炎・脳症、劇症肝炎・急性肝不全、心筋炎などの重篤な感染症が存在する。基礎疾患や免疫抑制剤の投与により易感染性を示す患者は、血流感染症などの重症感染症のリスクにさらされる。これら重症感染症では、病原微生物は幅広く、通常は複数の検査を平行して病原微生物の同定を試みる。重症感染症では、早期診断と適切な抗微生物薬の選択が予後を左右する。次世代シークエンス法は、一度のアッセイで、1,000万~10億程度のリード(DNA・RNA断片のシークエンス数)を得ることができ、臨床検体中の核酸断片を網羅的・定量的に解析できる。さらに薬剤耐性も同時に解析可能である。重症感染症における病原微生物診断は現状では不十分であり、多くの症例で診断できれば、抗微生物薬の効率的な使用が可能になり、感染症診療に大きな進展が予想される。生体内の微生物分布(マイクロバイオーム)を調べる方法は臨床診断法にそのまま応用できない。次世代シークエンス法を臨床応用できる基盤的研究を推進し、重症感染症の病原を早期に網羅的に診断できる方法を開発することを目指した。具体的な成果としては、中枢神経感染症を疑われた1歳未満の小児28例について、病原微生物の解析を行うだけでなく、RNA解析により生体応答についての解析を試みた。その結果、病原微生物検出群では未検出群と比較し、抗ウイルス遺伝子であるMX1, ISG15, およびOAS1の発現上昇を認めた。また、病原微生物検出群で自然免疫反応や脱ユビキチン化に関する遺伝子群の発現が上昇していた。先天性サイトメガロウイルス感染症の中枢神経障害に関するmiRNAの解析については、尿検体中のmiRNAについて、症候性感染11例、無症候性感染8例、コントロール11例でマイクロアレイによる発現解析を行い、有意な発現変動のあるmiRNAを抽出した。今後、バイオマーカーとしての有用性の検討について計画中である。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Open Forum Infect Dis
巻: 9 ページ: ofac504
10.1093/ofid/ofac504