研究課題/領域番号 |
19K08300
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
山田 健治 島根大学, 医学部, 特別協力研究員 (70624930)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | in vitro probe assay / FAO flux / 脂肪酸代謝能 / VLCAD欠損症 / 脂肪酸代謝異常症 / CPT2欠損症 / グルタル酸血症2型 / ペマフィブラート |
研究実績の概要 |
脂肪酸はグルコース欠乏時の代替エネルギーとして働くが、脂肪酸代謝異常症では、グルコース欠乏時に重篤なエネルギー代謝不全を呈する。重症度に応じて症状や予後が異なるが、中間型といわれる重症度であっても、重篤な低血糖や致死的な不整脈、心筋症などで亡くなることもある。一方、生涯発症しない、あるいは成人期以降に軽微な筋症状が出る程度の最軽症/無症候例も多数いる。本研究では、インビトロの実験系を用いて包括的に脂肪酸代謝能を測定し、正確に重症度を分類し、最低限のフォローだけで良い最軽症/無症候例を鑑別することが目的である。 2020年度からの継続的な実験において、VLCAD欠損症とCPT2欠損症という脂肪酸代謝異常症の2疾患の皮膚線維芽細胞を高温で培養したところ、脂肪酸代謝能が低下することを突き止めた。つまり、熱ストレスが脂肪酸代謝異常症を増悪させるのである。これを応用して、様々な重症度の患者由来細胞に熱ストレスを加えて脂肪酸代謝障害の程度に違いがあるのか確認したが、結果的に熱ストレスを応用した重症度の判定は難しいことが分かった。 また、培養液にフィブラート系製剤の一つであるベザフィブラートを添加すると脂肪酸代謝能が改善することが知られている。今回はフィブラート系製剤の新薬であるペマフィブラートが脂肪酸代謝能を改善させるのか調べたが、結果的に疾患の種類や重症度に依らず薬剤反応性がなく、これは治療薬として期待できないことが分かった(先天代謝異常学会で発表、2022年11月)。 さらに、脂肪酸代謝異常症の一つであるグルタル酸血症2型について、日本人の臨床的遺伝学的特徴をまとめ、ETFDH遺伝子のp.Y507D変異が日本人特有で比較的頻度が多く、また重症度も高いことから、日本人GA2患者の3人に1人は重症型で3歳までに死亡することを報告した(MGR reports, 2023年9月採択)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最も大きな理由は、主任研究者である山田が、2021年度に大学病院から市中病院へと異動となり、当初予定していたエフォートを割けなくなったことである。 また、2020年度途中から、当初使っていたFAO fluxを測定するための消耗品が販売中止となり、それの代替品を選定する上で、複数回の予備実験を行うこととなった上に、これまでの研究結果との比較が出来ず、過去に行った実験を新しい消耗品でやり直す手間が増えた。 さらに、当初の予想と異なり、熱ストレスや薬剤負荷による脂肪酸代謝の修飾では、重症度を判別できないことから、更に別の培養条件を検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
現状の測定法では最軽症/無症候型と、健常コントール、中間型はオーバーラップするために完全に分類することは出来ていない。培養条件を変更することで検査の精度向上を図りたい。 また、上述の通りFAO fluxに使用する実験消耗品(陰イオンカラム)について、ようやく本実験に合う代替品が餞別できた。これによってFAO flux法による脂肪酸代謝能の測定は精度が向上することが予想される。今後は、疾患重症度に応じて熱ストレスや薬剤ストレスの反応性に違いが生じるのか評価したい。 なお、熱ストレスによる脂肪酸代謝能の低下は重症度によって異なり、これによって重症度分類が可能という既報があった。しかし、我々が用いているIVPアッセイやFAO flux法では重症度による脂肪酸代謝能の変化の違いを捉えきれないことが、これまでの研究で分かってる。これは実験系の違いだけでなく、対象としている細胞の遺伝子型などが違うことも影響していると思われる。昨年はグルタル酸血症2型の重症度や遺伝子型は、日本人と海外で大きく異ることを突き止めたので、他の疾患についても、日本人の臨床的・遺伝学的背景について調べるつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
前述の通り、研究責任者である山田が大学病院から市中病院に異動となり、診療に充てる時間が増えたため、当初予定していたエフォートを本課題に割けなくなった。そのため、全体的に遅延が生じている。 余剰な研究費については、実験に使用する消耗品を購入したり、論文の英文校正費や投稿費に充てる予定である。
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