研究実績の概要 |
脂肪酸代謝異常症の症状・予後は様々で、致死的な不整脈、心筋症などを呈する重症型がいる一方で、生涯発症しない、あるいは成人期以降に軽微な筋症状が出る程度の最軽症/無症候例が多数いる。本研究の目的はインビトロの実験系を応用して最小限のフォローだけで良い最軽症/無症候例を鑑別することである。 VLCAD欠損症とCPT2欠損症という代表的な脂肪酸代謝異常症の皮膚線維芽細胞を高温で培養すると脂肪酸代謝能が低下することを突き止めた。これを応用して、様々な重症度の患者由来細胞に熱ストレスを加えて脂肪酸代謝異常症の重症度を鑑別できるか検討したが、結果的に熱ストレスによる重症度の判定は難しいことが分かった。一方、C14:1/C12:1アシルカルニチンの比の測定がVLCAD欠損症患者の診断に有用であることを報告した(MGR reports, 2019年11月)。この指標は培養条件を変えることでIVPアッセイ法においても重症度判定に応用できた。 また、培養液にフィブラート系製剤の一つであるベザフィブラートを添加すると脂肪酸代謝能が改善することが知られている。改善の程度は疾患の重症度で異なるが、フィブラート系製剤の新薬であるペマフィブラートは疾患の種類や重症度に依らず薬剤反応性がなく、これは治療薬として期待できないことが分かった。さらに、脂肪酸代謝異常症の一つであるグルタル酸血症2型について、日本人の臨床的遺伝学的特徴をまとめ、ETFDH遺伝子のp.Y507D変異が日本人特有で比較的頻度が多く、また重症度も高いことから、日本人GA2患者の3人に1人は重症型で3歳までに死亡することを報告した(MGR reports, 2022年11月)。 最終的には種々の実験系を応用することで重症型と軽症型をある程度は鑑別できるものの、最軽症/無症候型を鑑別することは困難であった。
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