研究課題/領域番号 |
19K08302
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
上野 健太郎 鹿児島大学, 医歯学域鹿児島大学病院, 講師 (20644892)
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研究分担者 |
河野 嘉文 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (20260680)
野村 裕一 独立行政法人国立病院機構鹿児島医療センター(臨床研究部), 小児科, 研究員 (90237884)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 川崎病 / DAMPs / HMGB1 / 自然免疫 |
研究実績の概要 |
背景:川崎病冠動脈病変は、川崎病罹患児の約3%に合併するとされており、小児後天性心疾患の最大の問題である。私たちは先行研究でDAMPsの中心的役割を担うHMGB1値の上昇が冠動脈病変形成に関与している可能性を示した。先行研究から、川崎病モデルマウスに抗HMGB1抗体を投与することで冠動脈病変形成を予防できるのではないか、と仮説をたて検証した。 方法:Lactobacillus casei cell wall extract (LCWE) を腹腔内投与し、川崎病モデルマウスを作成した。リン酸緩衝生理食塩水 (PBS) 腹腔内投与群をコントロール群とし、川崎病モデルマウス群は、無治療群 (PBS投与群)、免疫グロブリン (IG) 投与群、免疫グロブリン+抗HMGB1抗体 (IG+aHMGB1) 投与群の3群に分類した。マウス心臓切片の病理組織、心臓組織中のmRNAおよび蛋白発現解析、血漿中の炎症性サイトカイン発現量を評価し比較した。 結果:①病理組織:無治療群ではコントロール群と比較し、冠動脈周囲に炎症細胞の浸潤がみられ、外弾性板の断裂、中膜平滑筋層の増生がみられた。IG群、IG+aHMGB1群は無治療群と比較し炎症細胞の浸潤が抑制され、炎症スコアが低下した。②心臓組織中のmRNAおよび蛋白発現解析:無治療群ではIL-1β、IL-6、TNFα、VEGF-A、RANTESの発現量が増加したが、IG群およびIG+aHMGB1群ではこれらの発現量が有意に低下した。細胞内シグナル蛋白の発現に差はみられなかった。血漿中のRANTESは、コントロール群と比較し無治療群で増加し、IG群およびIG+aHMGB1群では無治療群と比較し有意に低下した。 結語:川崎病では、標準的治療である免疫グロブリン療法に加えて抗HMGB1抗体を投与することで、冠動脈病変の形成を抑制する可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の研究計画に沿った研究内容、研究結果を示すことができており、おおむね順調に進展している。組織中のシグナル蛋白の発現解析については、ウェスタンブロット法で解析しているが、ブロットが不鮮明であったり、シグナルが弱く判断が困難であったため、サンプル濃縮やゲルに泳動する蛋白量を調整し、検証中である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果を検証するため再現性を確認する。また研究結果に安定性が得られていない心臓組織細胞中のシグナル蛋白解析・評価については、問題点を抽出したうえで引き続き実験を継続していく。 川崎病における標準的治療である免疫グロブリンに加えて、HMGB-1を標的とした分子標的治療の有用性を示し冠動脈の組織障害を最小限に抑えることが証明できれば、宿主側の自然免疫の活性化を抑える治療を念頭に置いた治療の有用性が実証されることになる。本研究の成果は、急性期の冠動脈病変や遠隔期の急性冠症候群発症を予防する新たな治療戦略になりうると考えている。
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