研究課題
本研究では、胎児由来のシグナルが分娩のタイミングが決定するという胎児シグナル説を検証し、その制御機構の分子的基盤を明らかにすることを目的とした。これまで胎児シグナル候補の一つとして成長分化因子 midkine(MDK)に注目し検討を進めている。本年度においては肺上皮細胞モデル細胞としてNCI-H441細胞を用い、A549細胞における変化との比較を行った。合成糖質コルチコイド dexamethasone(DEX)の添加でA549細胞ではDEX量依存的な二相性の変化が認められたが、NCI-H441細胞ではこのような変化がなく、A549細胞でMDK発現が抑制された濃度においてもMDK発現は抑制されなかった。この差異は、同じサーファクタント産生細胞でもA549細胞が肺胞上皮II型細胞のモデルであるのに対して、NCI-H441細胞はこれに類似するが細気管支に存在するクララ細胞のモデルであることを反映しているのかもしれない。しかし妊娠維持の必須ホルモンであるプロゲステロン(P4)に対しては、NCI-H441細胞において妊娠中の生理的P4血中濃度の低濃度の範囲(10nM-100nM)の添加では、MDK発現増強が見られた。これはMDKがP4依存性に調節される可能性を示しており、胎児由来肺胞上皮細胞での検討を要する。一方、以前のRNA-seq結果から、羊膜上皮細胞でMDKにより負に制御される候補遺伝子の一つとしてadrenomedullin(ADM)が挙がっていたため、ヒト羊膜組織培養にMDKを添加し、MDKによるADM発現調節を検討したところ、同様の負の制御が認められた。ADMの羊膜での作用は未知だが、一般的には血管増生への関与が知られる。MDKは羊膜上皮細胞で血管増生因子であるVEGFAも発現抑制するため、これは無血管の羊膜の恒常性を維持する機構に含まれるのかもしれない。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (2件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件) 図書 (2件)
周産期医学
巻: 52 ページ: 15-20
巻: 51増刊 ページ: 290-295