研究課題
心臓流出路異常は先天性心疾患の中で最も発生頻度が高い。その形態形成には二次心臓領域細胞、後耳胞(心臓)及び前耳胞神経堤細胞、心外膜前駆細胞などが関わることが知られる。さらに心臓流出路では冠血管、リンパ管が分布するが、これらの詳細な発達過程は十分に理解されていない。今年度は心臓流出路に分布する冠動脈およびリンパ管形成に、セマフォリン3Eとその受容体であるプレキシンD1シグナルが重要であることを明らかにした。発生期にはセマフォリン3Eは心膜や心外膜で分泌され、プレキシンD1を発現する周囲の血管、リンパ管内皮細胞の配置を制御していることが分かった。セマフォリン3E欠損マウスではリンパ管の拡大が、プレキシンD1欠損マウスではリンパ管低形成を認めた。このシグナルは冠動脈形成にも関与し、両シグナルの各々の欠損マウスで冠血管入口部の増加を認めた。さらに心筋梗塞マウスモデル実験でセマフォリン3EープレキシンD1シグナルの抑制が心筋梗塞による心筋のダメージを抑え、心臓機能が保護されることを明らかにした。これらの結果は心筋梗塞の新規治療法開発や先天性心疾患の理解に役立つ可能性がある(発表論文 iScience 2021, 24(4), 102305 DOI:https://doi.org/10.1016/j.isci.2021.102305)。また、流出路形成に関わる可能性のある原羊膜細胞の単一トランスクリプトーム解析やリアルタイムPCRによる遺伝子発現の定量解析の結果、原羊膜細胞はFgf2刺激に反応しVegfr2発現が上昇し、周囲のVegf刺激をうけることにより血管内皮への分化が促進されることを明らかにした。原羊膜細胞と神経堤細胞との相互作用の検討では、心臓神経堤細胞を除去した胚では甲状腺内に寄与した原羊膜細胞の数に増加傾向がみられ何らかの相互作用が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
心臓流出路ではセマフォリン3EープレキシンD1シグナルが関与しリンパ管及び冠動脈形成を制御していることを明らかにした。一方、心臓流出路形成に関与すると考えられる原羊膜細胞の単一トランスクリプトーム解析や遺伝子発現の定量解析を実施した。その結果、血管内皮関連遺伝子、造血系関連遺伝子が示唆された。その検証をin ovo, in vitro実験で検討し、Fgf2刺激に反応しVegfr2発現が上昇し、周囲のVegf刺激をうけることにより血管内皮への分化が促進されることを明らかにした。また心臓神経堤細胞が心臓流出路の到達前に甲状腺形成にも関係していることから、原羊膜細胞と心臓神経堤細胞の心臓における分布状況を確認中である。
原羊膜細胞と神経堤細胞との相互作用の検討で、心臓神経堤細胞を除去した胚では甲状腺内に寄与した原羊膜細胞の数に増加傾向がみられ何らかの相互作用が示唆された。さらにウズラーニワトリキメラ胚手技を使用した実験により、心臓流出路における原羊膜細胞の分布状況は、心臓(後耳胞)神経堤や前耳胞神経堤細胞の分布状況とよく相似した分布であることが示唆された。これらの問題点を明らかにする必要がある。甲状腺形成には、発生初期に前耳胞神経堤細胞が、発生後期には心臓(後耳胞)神経堤細胞が関与し、さらに前耳胞神経堤細胞は心臓の冠血管中隔枝に分布している。原羊膜細胞の詳しい分布状況をまとめる必要がある。これまでの単一トランスクリプトーム解析や遺伝子発現の定量解析データ、細胞分布状況などをまとめ論文発表に進める予定である。
予定金額よりも比較的安く物品が購入できたため、残金が残った。今年度はすべて使用する予定である。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件) 図書 (3件)
iScience
巻: 24 ページ: 102305~102305
10.1016/j.isci.2021.102305
eLife
巻: 9 ページ: 1-29
10.7554/eLife.56223