様々な免疫性神経疾患におけるアストロサイトの役割を明らかにするため、TRECK法によるin vivoにおけるアストロサイトのアブレーションを試みた。具体的にはジフテリア毒素受容体(DTR)遺伝子の上流にloxp配列で挟んだSTOP カセットを導入したノックイン(DTR-KI)マウスと、アストロサイト特異的発現を誘導するGFAP-Creマウスを交配することで、アストロサイトが選択的にDTRを発現する遺伝子改変マウス(GFAP-iDTR)を作製し、ジフテリア毒素(DT)の投与によりミクログリアを選択的に死滅させることを試みた。GFAP-Cre/+マウスとDTR-KIマウスの交配により得られた仔のジェノタイピングを行い、約半数の仔で組み替えが起きていることを確認した。これらのマウスに生後8週の時点でDTを投与したが、明確な症状の出現を認めなかった。DTの投与量を増やしたところ、一部のマウスで衰弱と体重減少が見られたものの、GFAP-iDTRマウスとコントロールマウスとの間に明らかな差を認めず、DT投与による非特異的な衰弱と考えられた。組織学的には脳の部位によってはGFAP陽性細胞の減少が認められたが、総じてコントロールと比較して有意な差は認めなかった。アストロサイトにおいてTRECK法が機能しなかった理由は明らかではないが、アストロサイトの旺盛な再生能力により、十分なアブレーションに至らなかった可能性があると考えられた。
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