研究課題/領域番号 |
19K08312
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研究機関 | 国立研究開発法人国立成育医療研究センター |
研究代表者 |
内山 徹 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 成育遺伝研究部, 室長 (10436107)
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研究分担者 |
西増 弘志 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (00467044)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 遺伝子治療 / 機能獲得型変異 / ゲノム編集 / 変異アレル特異的編集 |
研究実績の概要 |
活性化PI3Kδ症候群をはじめとする機能獲得型変異による疾患に対するゲノム編集では、変異アレルのみを認識して編集する必要がある。2020年度は、変異アレル特異的な認識と編集を中心に開発を行った。まず、活性化PI3Kδ症候群の原因となるPIK3CD遺伝子のホットスポット変異であるE1021Kを片アリルにもつT細胞株を樹立した。前年度までに確立したCas9の導入方法を用いて、これらの細胞に対して変異アレルのみの破壊、もしくは修復を実施した。両方法とも標的配列の高い切断効率が重要であることから、複数のガイドRNAを設計し、各ガイドRNAにおける切断効率を、次世代シーケンサーを用いて解析した。その結果、最大で80%程度のindel挿入が可能であり、indel挿入によるフレームシフトの誘導は70%であった。 さらに、変異部位(エクソン24)の正常配列ドナーDNAを同時に導入することで相同組換え修復を行ったとこと、60%程度の効率で変異の修復を認めた。高い効率でゲノムDNAの修復が可能であったが、いずれの方法でも変異を持つ細胞が残存しており、臨床においてはこれらの細胞による症状の発症が考えられた。そこで、ゲノム編集効率の向上のため、Cas9導入後のT細胞、CD34陽性造血幹細胞における遺伝子発現プロフィールの変化をRNAシーケンスによって確認した。Cas9導入後は、ともにp53遺伝子の下流に位置する遺伝子発現の上昇を認め、特に細胞周期の停止に関与する遺伝子の発現上昇は、ゲノム編集効率の低下を引き起こす可能性が考えられた。また、In vivoにおける解析のため、ヒトPIK3CD遺伝子変異に対応する変異を持つマウスの作製を開始した。これまでのところ目的の変異を持つ個体を得られておらず、引き続き作製を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は新型コロナウイルスの影響により、所属機関における研究が4-6月の3ヶ月間完全に中断となった。 特に、昨年度の後半より開始した変異細胞株の樹立のほか、マウスモデルの作製に対して影響が大きく、これらに関しては、当該年度後半からの再開となってしまった。 一方で、変異アレル特異的な編集に関しての基礎技術は確立でき、またGUIDEseq法による解析でもオフターゲット効果を最小限に抑えることが可能あった。2021年度は樹立した変異細胞やマウスモデルを用いた有効性の確認を鋭意進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
1)変異アレル特異的なゲノム編集効率の向上:現在までのところ、ゲノム編集後も一部の細胞では変異アレルが存在することから、さらなるゲノム編集効率の向上を試みる。RNAシーケンスによる解析では、これまでの報告と同様に、p53遺伝子を中心と遺伝子発現の変化が認められ、これらがゲノム編集効率を低下させている可能性が考えられた。RNA干渉によるこれらの遺伝子の一時的な抑制により、編集効率の上昇が可能かを検討する。 2)ゲノム編集後の細胞の機能解析:ゲノム編集による、PI3K経路の恒常的活性化の改善を検討する。APDS患者では、健常人に比べて恒常的にAktのリン酸化が起こることから、ゲノム編集後のT細胞におけるリン酸化の正常化についてフローサイトメトリーを用いて確認する。一方で、PI3K/Akt経路は正常な細胞の分化や増殖に必要であり、変異アリルのノックダウンでは正常アリルが通常の半分となることから、細胞の機能低下を引き起こす可能性が否定できない。これらを確認するために、ゲノム編集後のT細胞の増殖やサイトカイン産性に関して、健常人細胞と比較を行う。また、変異マウスの作製が可能であった場合には、造血幹細胞に対するゲノム編集や、これらの細胞を移植後に、免疫能の正常化が認められるかなどの評価を行い、造血幹細胞遺伝子治療の可能性に関して検討する。 3)安全性の評価:引き続き、臨床応用に向けた安全性評価を目的として、オフターゲット効果について検討する。これまでに確立したGUIDEseq法により、患者T細胞および変異マウスを用いた実験で得られた試料に対して、オフターゲット解析を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの流行により、所属する成育医療研究センター研究所が4月ー6月の3ヶ月間閉鎖となり、研究活動を中断することになった。特に、細胞株や変異マウスの作製が中断となったことから、再開後も一部の実験は最初の行程からの開始となり、そのため使用予定であった研究費の一部を次年度に繰り越す必要が生じた。
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