跳躍伝導を可能とする神経軸索のミエリン(髄鞘)化は、高次脳機能の発現と維持に必須の生命現象であり、その異常は様々な精神・神経疾患の病因となる。本研究で対象とするクラッベ病(KD)は、ガラクトシル セラミダーゼ(GALC)の欠損によって乳幼児期に脱髄を発症するライソゾーム病の一つであり、患者の多くは重度の運動発達異常を呈し発症後2年以内に死亡するが、その治療法は確立されていない。 本年度の研究実績としては、KDマウス脳由来のオリゴデンドロサイト(OL)の病態にリソファジー(損傷したライソゾームを修復するためのオートファジーの一つ)の関与を見出し、それらがmiR-219によってレスキューされることを明らかにした。さらに、RNA-seq等の遺伝子発現解析の結果、miR-219が、コレステロール新生や細胞死、エンドサイトーシスなど、OLの脂質合成や生存維持、細胞内小胞輸送の正の制御因子として働くことを明らかにした。また、サイコシン合成酵素として注目されるASAH1がmiR-219で発現抑制されたことから、これがmiR-219によるサイコシン蓄積の改善効果に働く可能性が示唆された。一方、miR-219の個体レベルの効果については、アデノ随伴ウイルスベクターを用いた脳内へのマイクロRNA導入実験を行った。 研究期間全体を通じて実施した研究成果としては、これまで不明であったKDのOLでみられる細胞病態に、分化発達期のmiR-219発現低下が深く関わることを明らかにした。また、その作用機序を分子レベルで解析し、Akt/mTORシグナル経路及びリソファジーの関与を見出した。個体レベルの研究に関しては、アデノウイルスベクターの効果的な投与を検討し、疾患モデルマウスのOLに特異的なマイクロRNAの導入を可能とした。
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