研究課題/領域番号 |
19K08332
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
河原 幸江 久留米大学, 医学部, 准教授 (10279135)
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研究分担者 |
河原 博 鶴見大学, 歯学部, 教授 (10186124)
大西 克典 久留米大学, 医学部, 助教 (10626865)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | レット症候群 / モデルマウス / グレリン / ドーパミン / 行動試験 / マイクロダイアイリス |
研究実績の概要 |
本研究ではまず、我々の所有するレット症候群モデルマウス(MECP2遺伝子欠損マウス)がヒトのレット症候群の症状をどれだけ反映するのかを行動学的に評価した。その方法として、短期空間記憶を評価するためのYメイズ試験、運動量を評価するためのオープンフィールド試験、運動能力や本能行動を評価するための巣作り試験、新規の物体を認識できるかどうかの新規物体認識試験、仲間を認識できるかどうかの社会性試験、不安の度合いを評価する新奇環境摂食抑制試験を実施した。他に、振戦の有無や体重の増加速度、寿命といった全身的な症状を評価した。その結果、行動試験では物体を認識する能力と巣作り行動が低下していた。全身的な症状としては、振戦・低体重があり短命で、他のモデルマウスとほぼ同様の症状を示した。次に、グレリンの治療効果を調べるために、グレリンを投与して行動試験と全身状態を評価した結果、新規物体を認識する能力が改善することがわかった。他の症状には変化がなかった。 そこで、グレリンの投与がどのような神経メカニズムで物体を認識する能力を改善するのかを調べた。このために、認知能力に関与が深い前頭前野のドーパミン神経からのドーパミン放出量をマイクロダイアリシス法で検討した。その結果、コントロールマウスは新規環境へ暴露するとドーパミン放出量は約2倍増加するのに対し、モデルマウスではこの増加がほとんど無いことがわかった。モデルマウスにグレリンを投与後、新規環境へ暴露するとコントロールマウスと同じようにドーパミンは約2倍に増加することがわかった。グレリンの投与で、前頭前野のドーパミン神経が活発になり、認知機能が改善され、新規の物体を認識する能力が改善されると考えられた。しかし、グレリンは他の症状には効果がみられなかった。 すなわち、本研究結果よりグレリンのレット症候群モデルマウスにおける認知機能低下への有効性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画に沿って、レット症候群モデルマウスの行動学的評価と脳内ドーパミン神経の評価を実施した。さらに、グレリンの治療薬としての有効性について、認知機能の低下に対する改善効果を見出した。グレリンが脳内の主要な2つのドーパミン神経系である①腹側被蓋野‐前頭前野ドーパミン神経系と②黒質‐線条体ドーパミン神経系のうち、①の腹側被蓋野‐前頭前野ドーパミン神経系へ作用し、ドーパミン神経を活性化するが②の黒質‐線条体ドーパミン神経系に対しては大きな作用は示さないことがわかった。この①の腹側被蓋野‐前頭前野ドーパミン神経系へ作用を介して認知機能を改善する神経メカニズムを見出した。 研究計画期間の残りの時間では、統計学的解析に至っていない実験的動物群について同じ実験系を繰り返す必要がある。これは実施完了している予定であったため、計画通りの進行状況とはいえないが、それほど多くの時間を要する予定ではないので、おおむね計画通りの進行状況とした。また、研究成果の論文発表までを終わらす計画である。
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今後の研究の推進方策 |
ほぼ研究の結果は明らかとなったため、計画の変更や今後の研究遂行上の課題は特にない。今後の研究計画期間では、研究結果の信頼性をより高めるための統計学的解析上の実施動物数の追加の必要性がある。また、期間内に統計解析作業を含めた論文の作成と発表を推進することを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であったカラムヒーターの納期が、年度末を超えて大幅に遅れることが判明したため、購入を中止したことにより残額が生じた。次年度は、論文投稿料、学会発表経費など研究継続に必要な物品費など当初の計画にそった使用に加え、カラムヒーターを購入する予定である。
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