本研究により、ヒトiPS細胞由来のTsc2欠損型神経細胞(iPS-Tsc2 neuron)に高頻度の発火パターンを見出した。またiPS-Tsc2 neuronでは、電位依存性カルシウムチャネルからのカルシウム流入がmTOR依存的に増大していることを明らかにした。野生型神経細胞への活性化型Rhebの強制発現によってもカルシウム流入の増大が起こったことから、電位依存性カルシウムチャネルの活性異常はTSC2欠損によるRhebの活性化により引き起こされることがわかった。さらにカルシウム流入の増大がiPS-Tsc2 neuronの軸索伸長の増大や神経伝達効率に関与する転写因子CREBの持続的な活性化を引き起こして、iPS-Tsc2 neuronの興奮性を高める可能性を示唆することができた。これらの結果をまとめて「TSCのてんかん発症にmTORC1による細胞外カルシウム流入の増大が関与する」という内容の論文をJ. Neuroscience誌に掲載した。 一方で、知的障害、自閉症などの神経症状の評価となるバイオマーカーの探索をiPS-Tsc2細胞を用いて行った。 前年度iPS-Tsc2細胞を神経前駆細胞に分化させ、その培養上清に存在するエクソソームからmiRNAを調製し、野生型に比べてiPS-Tsc2神経前駆細胞に多く発現する複数のmiRNAを同定することに成功した。今年度はこれらのmiRNAがヒトTSC患者の血液中でも多く発現するのか、また神経症状との関係があるのかどうか解析することを目指した。TSC患者の血液からmiRNAを抽出してcDNA合成し、目的のmiRNAの定量を行った。
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