Epstein-Barr virus (EBウイルス:EBV)は移植医療後のリンパ増殖症 (PTLD: Posttransplant lymphoprolifirative disorder)を引き起こす代表的なウイルスである。PTLDは、小児の臓器移植後に発生する悪性腫瘍の90% 以上を占め、移植医療成績を左右する重要な合併症である。PTLD発症は成人よりも10倍以上小児が多く、その予防と治療法の確立は急務である。現在、EBVに対する抗ウイルス薬はなく対処療法が主な治療になり、骨髄移植を選択しなくてはいけない症例も少なくない。本研究ではヒト化マウスを利用し、PTLD発症の鍵となるEBV感染細胞の不死化(がん化)制御機構の解明と不死化阻害薬の開発を目指し、PTLD発症予防法の確立を目指した。EBVによる不死化においてCD40シグナルが重要な役割を担っていることがこれまでの研究から明らかになっていたので不死化阻害の標的分子として、CD40シグナルに注目した。CD40シグナル阻害による不死化効率を低下させる阻害剤CD40Igの作製を従来の昆虫細胞による作製からヒト細胞に変換し、より阻害効率の上昇と投与量の減量を目指した。また、CD40リガンド(CD40L)へのシグナル阻害も考慮しCD40LIgの作製も実施した。その結果、ヒト細胞を使用した分泌型CD40Igと分泌型CD40LIgの作製および回収に成功した。これらの分泌型CD40Igと分泌型CD40LIgによるin vitro実験でのEBV感染不死化効率抑制効果は通常の不死化効率の1/10以上であった。現在、ヒト化マウスへのEBV感染モデルを利用したin vivo実験を継続しているが、第1実験においてはEBVによるがん発症数は1/10程度であった。in vivoにおいても効果は期待できる。課題としては分泌型CD40Igと分泌型CD40LIgの回収率の低さである。今後は分泌型CD40Igと分泌型CD40LIgの回収率のアップと精製工程の短縮である。
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