研究課題
小児急性骨髄性白血病(AML)は小児がんにおいて最も予後不良な疾患の1つであり、これまでの網羅的な遺伝子解析の結果、予後不良な遺伝子再構成であるNUP98-NSD1症例全例においてPRDM16遺伝子が高発現していることを同定し、さらに予後不良AMLの多くでPRDM16遺伝子が高発現となっていることを突き止め、重要なリスク因子として報告してきた。令和2年度はPRDM16高発現であるNUP98-NSD1陽性AML症例の検体を用いて、PRDM16に対する抗体を利用してCHIP-seqを施行した。その結果、SKI、RUNX1等の既知のがん関連遺伝子に加え、神経系の発達に関与する遺伝子Yなど、複数の遺伝子の関与を同定した。遺伝子Yの下流に座位しているRHOAキナーゼの阻害剤を用いて、AMLの細胞株に対して薬剤感受性試験を施行したところ、細胞株の増殖抑制効果を確認した。特に、PRDM16高発現AMLではPRDM16-SKI融合遺伝子を形成している頻度が高く、これらの遺伝子が強調してPRDM16遺伝子の高発現に寄与し、AMLの難治化に関与しているものと考えられた。また、近年、microRNAのAMLへの関与が指摘されており、様々な遺伝子背景をもつ小児AML48例でmicroRNAシーケンスを施行した。その結果、発現パターンから4つのClusterに分類されることを同定し、一部は既存の遺伝子異常と相関するものの、おおむね既存の遺伝子異常の枠を超えて、新たな予後予測に有用となる可能性が示唆された。現在、遺伝子異常や遺伝子発現データ、網羅的DNAメチル化のステータスとの照合を行い、統合的な解析を行っている。
2: おおむね順調に進展している
令和2年度は予定していたnCounterを用いた小児AML48サンプルにおけるmicroRNAの発現測定、PRDM16遺伝子に対する抗体を用いたCHIP-seqを施行することが出来、前年のATAC-seqと合わせ遺伝子の機能的なシーケンスの結果を得られることが可能であった。CHIP-seq、網羅的DNAメチル化、ATAC-seqはゲノム解析アプリを用いて統合的な解析が可能であり、予定していた解析を順調に施行することが可能であり、新たな知見を複数同定することが可能であった。
令和3年度は、Rapid Immunoprecipitation Mass spectrometry of Endogenous proteins(RIME)法を用いてPRDM16遺伝子に直接結合している転写コファクターやクロマチン関連タンパク質の同定を試みる。転写因子のDNAへの結合は遺伝子調節の中心的なメカニズムの一つであるが、転写因子は単独で作用することはなく、しばしば複合体として機能しているため、関連するコファクターを同定することがAMLの分子病態解明に重要であると考えられる。令和2年度までに施行したATAC-seq、CHIP-seqで同定された候補遺伝子と合わせ、特に、遺伝子X、PRDM16、ポリコームタンパク群(EZH2等)、HOX pathway関連遺伝子が難治性白血病の重要なターゲットになると考えられることから、これらの活性を阻害する標的を同定し、新規薬剤の開発につなげることを目標とする。また、CHIP-seqで同定されたPRDM16遺伝子のターゲットの候補の一つである遺伝子YはBリンパ球や樹状細胞の活性化に関与することが知られているが、AMLでの機能は解明されておらず、遺伝子発現、パスウェイ解析等で関連の評価を行っていく。さらに、これまで申請者が実施してきた小児AMLにおける遺伝子変異解析、融合遺伝子解析、遺伝子発現解析、網羅的DNAメチル化解析に加え、microRNA発現解析、ATAC-seq, CHIP-seqの解析結果が揃ったことから、マルチオミックスに統合的な解析を進め、新たな予後予測因子の同定を試みたいと考えている。
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