研究課題
早期の生育環境が子の発達に大きな影響を与えることは古くから知られており、生後のストレス脆弱性やうつ病などの精神・神経疾患に影響を与えることは既に報告されている。これまでの申請者等の研究で、脳内免疫細胞のミクログリアは幼若期の環境で活性化が左右され、生後の神経細胞や脳内免疫システムの破綻を生み出している知見を得ている。本研究では、決定された脳内免疫細胞の特性がどの位シナプスの可塑性や成熟に関わるのかその解明を目指す。上記の疾患が幼児期、すなわち脳内に侵入する時期の早期ミクログリアの神経-グリア相関の破綻にあると位置づけ、ミクログリアの異常が成熟脳のシナプス刈り込み異常に起因している事を証明する。本年度はストレスをかけたマウス脳のミクログリアが活性化型を示しているか、シナプスとの関連を調べるために脳切片の透明化を行い、ミクログリアの形態を確認した。その結果、従来の免疫染色法よりもクリアな画像や突起の計上を確認することが出来た。さらに、ミクログリアのストレス下における性質を明らかにするために脳内ミクログリアの単離を試みた。従来、免疫学で利用されている磁気ビーズ法では解析がおこなえるだけの量を確保できなかった。このため、パーコール密度勾配法で試すこととなった。さらに、神経細胞やアストロサイト初代培養細胞を用いて、コルチコステロンの作用を検討したところ、2時間の短時間の処理ではグルココルチコイド受容体の発現は増加したが、24時間の長時間処理では発現が減少した。一方、アストロサイトではそれらの結果が見られなかった。この可能性として、グルココルチコイドを活性化する11βHSD1の発現を確認したが、違いは見られなかった。今後はこれらの作用にミクログリアが関与しているかどうか確認する。
3: やや遅れている
in vivoの実験系がコロナ禍で難しくなったためにやや遅れていると判断した。一方で、現在in vitroの系にて継続している。また、実験器具の納入が大幅に遅延した。現在初代神経培養細胞にCORT処理を施した細胞の形態やGR(グルココルチコイド受容体)の発現を確認した。その結果、CORTは神経突起の形成を阻害する一方で、急性の処理2時間では逆にNMDA受容体の発現を増加させることが分かった。このことから急性期と慢性(長時間)のCORTの作用には違いがあることが分かった。また、脳切片の透明化をおこない、ミクログリアの形態を調べた。
ストレスを負荷した成熟後のミクログリアはニューロン-グリア相関の観点から見るために脳スライスによる単一ニューロンの可視化や、透明化による違いをミクログリアの染色よりシナプス刈り込みの可視化を行う。これまでの結果から作成したモデルマウスのミクログリアは活性化しているので、モデルマウスを固定後、透明化を施し、ミクログリアの形態を詳細に解析する。また、in vivoの実験も再開できるようになったため、ミクログリア単離、解析をおこなっていく。
in vivoの実験、試薬や器具の調達が新型コロナウイルスの影響で遅延や中止になったため。消耗品の購入費用が次年度に繰り越した。未使用額は消耗品費、論文投稿費に使用し、研究を推進する。
すべて 2021 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)
ストレス科学
巻: 36(1) ページ: 22-34
iScience
巻: 24(7) ページ: 102741
10.1016/j.isci.102741.
https://www.teikyo-u.ac.jp/topics/2021/0706