研究課題/領域番号 |
19K08354
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
嶋田 和也 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (30439781)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 先天性サイトメガロウイルス感染症 / 先天感染 / 胎内感染 / ヒトサイトメガロウイルス / 分子生物学 |
研究実績の概要 |
妊婦がサイトメガロウイルスに初感染すると、胎盤を経由して胎児にウイルスが移行し、胎児は神経発育遅延、小頭症、脳内石灰化、難聴など神経学的異常を呈する重篤な先天性サイトメガロウイルス感染症を発症する。日本においては、出生1,000人に1人が先天性サイトメガロウイルス感染症により何らかの異常を示し、無症候性の場合でも遅発性の障害が出現する頻度は約1割程度と推測されている。しかしながら、サイトメガロウイルスが神経機能と脳の発達に与える影響は、ほとんど解明されていない。 サイトメガロウイルスは、ミエロイド系前駆細胞(マクロファージ、樹状細胞、顆粒球の前駆細胞)で潜伏感染を維持するが、我々は、これらの細胞で発現する潜伏感染タンパク質ORF152を見出した。また、サイトメガロウイルスを神経系細胞に感染させるとORF152を発現し、ORF152がCa2+の細胞内への流入を促進するタンパク質calcium modulating cyclophilin ligand (CAML)と結合することで、神経系細胞内Ca2+濃度を上昇させることを新たに見出した。 そこで、細胞内Ca2+濃度上昇の生物学的意義を検討するために、分泌型アルカリフォスファターゼ(SEAP)を用いたレポーターアッセイを行ったところ、ORF152によってカルシウムシグナルに関連するAP-1とNFATのプロモーターが活性化された。また、CAMLとORF152を導入することで、相乗効果も観察された。 従って、ORF152はCAMLと相互作用することで、Ca2+シグナル伝達を修飾し、神経機能と脳の発達に影響を与えることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
サイトメガロウイルスの潜伏感染タンパク質ORF152は、CAMLと相互作用することを示している。CAMLはカルシウムシグナルにも関連していると報告されているので、この経路を明らかにするために、SEAPとluciferaseの系を用いて検討した。その結果、ORF152単独及びCAMLとの協調作用で、カルシウムシグナルに関連するAP-1とNFATのプロモーターを相乗的に活性化することを明らかにした。しかしながら、シグナルカスケードについては未だ不明な点が多いため、さらなる解析が必要であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
SEAPとluciferaseの系を用いた解析から、ORF152とCAMLの協調作用によりAP-1とNFATのプロモーターを活性化することを明らかにした。今回の実験では、トランスフェクションのしやすさを考慮してHEK293Tを用いた解析となっている。これが神経系細胞でも同様の結果が得られるか、検討する予定である。しかしながら、通常のトランスフェクション法では導入効率が低い可能性もあるので、エレクトロポレーション法などの代替法も考慮しておく必要がある。 また、CAMLはTACIと結合することが報告されている。TACIはB細胞や制御性T細胞においては、細胞膜上に存在し、APRILやBAFFなどの受容体としての機能をもち、細胞内に生存シグナルなどの刺激を与える。これまでは、CAMLはB細胞における機能についての報告がほとんどであった。しかしながら、近年T細胞、特に制御性T細胞における機能が明らかになりつつある。今後は、他の免疫系細胞における機能についても明らかになることが期待される。 サイトメガロウイルスは様々な細胞に感染するが、潜伏感染するミエロイド系の細胞や、本研究で着目している神経系の細胞におけるCAMLの機能については未だ明らかにされていない。したがって、ORF152とCAMLが結合することで、神経系細胞にどのような影響があるのか、さらに検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由) メーカーのキャンペーンなどを利用して消耗品を購入したため、予定より低く抑えられ、繰り越しとなった。 使用計画) この未使用金を含め、次年度の研究費は、消耗品類の購入に使用する予定である。
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