研究課題/領域番号 |
19K08358
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
李 コウ 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第二部, 科研費研究員 (70621994)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ペリツェウス・メルツバッハー病 / 髄鞘形成不全 / 神経変性 |
研究実績の概要 |
Pelizaeus-Merzbacher病(PMD)は先天性大脳白質形成不全の代表的な疾患である。従来、変異体の髄鞘膜蛋白質PLP1蛋白質は、過剰な小胞体ストレスによって細胞に起こるunfolded protein response(UPR)により細胞死を誘導するものと考えられて来た。しかし、UPRの細胞死シグナル経路を抑制してもPMDモデルマウスの表現型の改善をみないことなどから、UPR以外の細胞病態の介在が示唆されている。最近我々は、変異体PLP1は細胞内カルシウムの恒常性の破綻を引き起こし、変異蛋白質とは別に、グローバルな正常膜蛋白質や分泌蛋白質の輸送を障害する可能性を見出した。本研究では新たな変異体PLP1病態モデルとして、小胞体ストレスによって、小胞体のカルシウム濃度の制御機能を低下し、カルシウム依存的な細胞内物流システムに支障を来たし、細胞の恒常性維持に必要な正常分泌蛋白質・膜蛋白質のグローバルな輸送障害を引き起こるという仮説を提唱し、このモデルの検証とその細胞分子機序の解明を行う。 本研究の計画は以下の3項目について、順次解析を進めていく。①変異体PLP1がオリゴデンドロサイトにおいて引き起こす細胞内分泌蛋白質・膜蛋白質の輸送障害の検証。②変異体PLP1によって生ずる細胞カルシウムの恒常性障害の検証。③変異体PLP1がカルシウム依存的な輸送経路を障害する分子メカニズムの解明。 本年度は主に①について、検証をした。HeLa細胞及びマウスのオリゴデンドロサイト不死化細胞株Oli-neu細胞に各種変異体PLP1を一過性発現させ、変異体PLP1が分泌蛋白質、膜蛋白質の輸送に及ぼす影響をVSV-G追跡実験で定量的に解析した。その結果、変異体PLP1による分泌蛋白質および膜蛋白質の輸送障害を確認され、また変異による疾患重症度と輸送障害の程度との関連性があることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は計画通り研究を順調に進む、既に変異体PLP1による正常な分泌蛋白質や膜蛋白質のグローバルな輸送障害も起こり、また変異による疾患重症度と輸送障害の程度との関連性があることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は変異体PLP1による小胞体から細胞質へのカルシウムの放出抑制の有無を検討する。細胞質へのカルシウム放出は、小胞体膜に局在するカルシウムチャネルタンパク質IP3受容体(IP3)、Ryanodine 受容体 (RyR3)を介して行われている。HeLa細胞、Oli-neu細胞に変異体PLP1を発現させ、変異体PLP1がIP3R, RyR3のカルシウム放出活性及び細胞質内カルシウムの濃度変化に及ぼす影響をFura2-Calcium Imaging法で解析する。 その後、変異体PLP1によるカルシウム依存的な分泌経路障害について分子機序を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度に、PLP1免疫染色実験を行うために、PLP1抗体を購入する予定であったが、試薬会社から抗体の試用品を無料で入手したので、未使用額が生じた。 予備実験終了後、2020年度にまたPLP1免疫染色実験を行うこととし、未使用額はその経費に充てることしたい。
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