研究実績の概要 |
Pelizaeus-Merzbacher病(PMD)は先天性大脳白質形成不全の代表的な疾患である。従来、変異体の髄鞘膜蛋白質PLP1蛋白質は、過剰な小胞体ストレスによって細胞に起こるunfolded protein response(UPR)により細胞死を誘導するものと考えられて来た。しかし、UPRの細胞死シグナル経路を抑制してもPMDモデルマウスの表現型の改善をみないことなどから、UPR以外の細胞病態の介在が示唆されている。最近我々は、変異体PLP1は細胞内カルシウムの恒常性の破綻を引き起こし、変異蛋白質とは別に、グローバルな正常膜蛋白質や分泌蛋白質の輸送を障害する可能性を見出した。 これまでの2年間で、我々は定量的にER-Golgi輸送の評価が出来るVSV-Gの実験系を確立し、変異体PLP1蛋白質がER-Golgi体輸送を障害することを示した。ER-Golgi体の輸送小胞(COPII小胞)の構造を解析したところ、変異型PLP1を発現するHeLa細胞では、COPII小胞構造蛋白質Sec24, Sec31において通常見られるPuncta状構造が消失し、COPII 小胞の形成が障害されることが示唆された。 本年度はこの知見を基盤として、我々は小胞体カルシウムインジケーターG-CEPIA1erを安定発現するHeLa細胞株(CEPIA-HeLa)を樹立し、変異体PLP1を強制発現したところ、CEPIA-HeLa細胞の小胞体カルシウム枯渇が確認された。また、変異体PLP1強制発現細胞に小胞体カルシウムイオンポンプ(SERCA)の促進剤CDN1163の投与は、小胞体カルシウム枯渇を改善すると共に、COPII 小胞の構造も改善した。 上記の結果より、変異体PLP1蛋白質が小胞体のカルシウム枯渇を介し、ER-Golgi体輸送を障害することを明らかにした。
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