本研究では、遺伝的背景の異なる多数の脊髄性筋萎縮症(SMA)患者由来の疾患特異的人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いて複数の試験管内疾患モデルを構築し、薬剤応答性の個人差の要因を解明することなどによって、SMAの標準的な治療法を開発することが目的である。最終的にはSMAモデルマウスを用いて非臨床試験を行い、医師主導治験に繋げることを目指す。現在までに、以下のことを行った。1)SMAの患者19名からエピゾーマルベクターによる初期化誘導6因子の遺伝子導入にて患者iPS細胞を樹立した。2)患者iPS細胞由来の神経系細胞では正常コントロールに比べて、SMN蛋白の減少、運動神経突起の伸長の低下、神経膠細胞数の増加、脊髄運動神経細胞の細胞死の増加、脊髄運動神経細胞数の減少が認められ、試験管内でSMAの病態を模倣することに成功した。3)甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン類似薬 (TRH)、抗酸化ストレス剤、臨床現場で抗てんかん薬として用いられているレベチラセタムについて薬効評価を行ったところ、TRHや抗酸化ストレス剤は患者iPS細胞由来の運動神経細胞の完全長のSMN蛋白を増加するだけでなく、神経突起の伸長にも寄与することを見出した。4)細胞死の観点からは、TRHには細胞死の抑制効果がないものの、抗酸化ストレス剤やレベチラセタムにはミトコンドリア機能の回復を介した神経保護作用があることなどを見出した。5)SMA病態では運動神経細胞だけでなく、星状膠細胞や希突起膠細胞も障害されていることを見出し、γ-セクレターゼ阻害剤がその病態を修復することを世界で初めて見出した。6)SMAモデルマウスを用いて、新規ドコサヘキサエン酸誘導体の強い神経保護作用を確認した。7)抗てんかん薬のルフィナミドがⅡ型やⅢ型の患者iPS細胞由来の運動神経細胞の神経突起を伸長させることを見出した。
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