研究課題/領域番号 |
19K08363
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
野中 綾 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任研究員 (50786621)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | AFP産生胃がん / オルガノイド / シングルセル解析 |
研究実績の概要 |
AFP産生胃がんのオルガノイドを維持培地と分化培地の2つの条件で培養すると、分化培地培養で細胞が肝臓様と腸管様の2方向性に分化することが一細胞RNA解析で明らかになった。2方向性の分化にどのような転写因子が関与するか同定するために、一細胞ATAC解析を行った。ATACピークのモチーフを同定することにより、結合する転写因子を推定できる。一細胞ATAC解析では、大きく6つのクラスターに分類され、それぞれの特異的なピークを検出しクラスター特異的に濃縮するモチーフを同定した。さらに一細胞ATAC解析と一細胞RNA解析は同一細胞由来のデータではないが、in silicoでデータを重ね合わせることが可能である。データの重ね合わせの結果、肝臓様への分化方向ではHNF4Aのモチーフが濃縮し、腸管様への分化ではHNF4Aのモチーフが低下することが明らかになった。さらに、分化過程においてGATAやCUTのモチーフの濃縮変化も同定された。これらの発現を一細胞RNA解析で確認すると、転写因子のモチーフの濃縮がみられるクラスターで、転写因子自体の発現が増加していたが、HNF4Aの発現は大きく変化はしていなかった。 また、肝臓様の分化初期および後期で、HNF4Aのモチーフが濃縮していたが、このHNF4Aの結合領域はどのように変化するか確認を行った。その結果HNF4Aの結合は分化初期はTSS付近が多く、分化にあらたにエンハンサー領域への結合が増加したことがわかった。次に、ATAC解析で各クラスターで濃縮していると示された転写因子に対して、CRISPRを用いてノックアウトを行いオルガノイドの分化が抑制されるのか確認した。肝臓様への分化方向で濃縮した転写因子を抑制すると、肝臓様クラスターで高発現する遺伝子およびHNF4Aの発現が抑制されることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで一細胞RNA解析によりAFP産生胃がんのオルガノイドが2方向性に分化することが明らかになっていた。どのような転写因子がこの分化を制御するのか、一細胞ATAC解析およびその後のデータ解析により選び出すことができた。さらにこれらの転写因子をCRISPRを用いることにより抑制すると、実際にAFP産生胃がんオルガノイドの分化を抑制することが明らかになった。また、この転写因子の一部は抑制をすることにより、肝臓様への分化を抑制し、腸管様への分化を促進した。AFP産生胃がんは肝臓に転移しやすいことが予後不良に寄与していることから、AFP産生胃がんの癌化メカニズムの解明につながると考えられる。 よって、おおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
AFP産生胃がんの分化には、HNF4Aが大きく関与しているとこれまでの一細胞ATAC解析により示された。このHNF4Aは肝臓の分化に関与する核内受容体であるため、肝臓様の発現をしめすAFP産生胃がんでも重要な役割を示すと考えられた。しかし、RNAは発現を確認すると、分化の過程でHNF4Aの発現は大きく変化してはいない。HNF4AはP1とP2の二つのプロモーターから12種類のバリアントを発現するとが知られ、それぞれのバリアントで結合タンパクが違うことが報告されている。そのためこのAFP産生胃がんでもHNF4Aのバリアントの違いが分化制御に関与していると考え、分化過程におけるバリアント発現を同定することにする。そのため、バリアントを同定できるロングリード一分子RNA発現解析を行うことにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ自粛のため、一時期研究が止まってしまった。 またオルガノイド培養に必要なサプリメントのうち、価格が高いWnt3a、Nogginの培養上清を研究室で作成できるよう、発現ベクターを作成したため試薬代の節約が可能となった。
|