既存の炎症マーカーCRPの上昇機序には、サイトカインIL-6と肝細胞の関与が不可欠であり、炎症性腸疾患(IBD)等の一部免疫疾患では病勢を反映しないことがある。研究代表者らのシーズであるマーカーLRGは、IBDの活動性評価においてCRPよりも感度や内視鏡スコアとの相関性に優れ、2020年、IBDで初となる血清活動性バイオマーカーとして保険承認された。しかし、IBDの活動性をLRGがどういう機序で反映するのか、CRPの機序とは何が異なるのか、十分には解明されていない。そこで本研究では、病態に関わる炎症性サイトカインに着目し、サイトカイン等の刺激にLRG産生細胞がどう応答するかを調べて、LRGの発現制御機構の解明を目指した。 本研究では、炎症部位でLRGを産生する細胞として腸上皮細胞、単球系細胞、好中球、急性期タンパク合成を担う細胞として肝細胞に注目し、各々の細胞株を利用して、siRNA実験やプロモーター解析(ルシフェラーゼアッセイ)によって、LRG産生機序について検討を行ってきた。腸上皮細胞、単球、肝細胞の細胞株では、STAT3やNFκBといった炎症性サイトカイン下流の転写因子がLRG産生の鍵となることが明らかになってきたが、本年度の検討で、好中球系細胞株においては、サイトカインへの応答よりも好中球への分化・成熟課程においてLRG産生が亢進することが示された。また、ヒトを対象とする臨床研究において、大腸内視鏡実施のIBD患者より採取した腸粘膜生検検体のmRNAを、次世代シーケンサーによる網羅的遺伝子発現解析で分析した。この結果、炎症部位の腸粘膜では特に自然免疫系シグナルが亢進していることが示唆され、IBD病変部位でのLRG産生には、自然免疫系シグナルが転写因子NFκBの活性化を介して大きく寄与することが考えられた。
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