大腸早期低分化腺がんの分子メカニズムを明らかにするため、手術切除された早期大腸がん症例のうち、低分化腺がんを含む症例を選択し、レーザーキャプチャーμダイゼクションによって低分化領域と周辺非癌部領域からRNAを抽出した。RNA-seq解析の結果、低分化腺がん領域におけるSAA1の高発現を同定した。大腸がん臨床検体(training set 45例、validation set 52例)を対象とした免疫染色の結果、T1大腸がんの浸潤先進部のSAA1発現は低分化腺がんの存在と高く相関することが明らかとなった。大腸がん細胞株を用いた機能解析の結果、SAA1のノックダウンは細胞増殖に影響を与えなかったが、遊走・浸潤能を抑制した。一方、SAA1過剰発現はやはり増殖能に影響を与えないが、遊走・浸潤を促進した。腫瘍微小環境において、大腸がん細胞のSAA1発現を誘導するメカニズムとしてマクロファージに着目した。THP-1細胞をPMA処理によってマクロファージ様細胞に分化させ、大腸がん細胞と共培養した。その結果、マクロファージが大腸がん細胞のSAA1発現を誘導することを見出した。これらの結果を臨床検体の免疫組織染色によって検証した。大腸がん47例を対象にSAA1発現、マクロファージマーカーであるCD80、CD163で免疫染色し、浸潤先進部と腫瘍中央部における発現を、画像解析ソフトを用いて定量解析した。その結果、腫瘍先進部において、SAA1とCD80が共に強く染色されることを見出した。一方、CD163は浸潤先進部、腫瘍中央部ともに染色された。これらのことから、腫瘍先進部では大腸がん細胞とマクロファージの相互作用によりSAA1発現が誘導されていることが示唆された。さらに我々は、大腸がん細胞由来のSAA1がマクロファージのMMP9発現を誘導することを共培養実験およびリコンビナントSAA1を用いた実験から明らかにした。
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