研究課題
前年度(2019年度)の研究で得られたクローン病患者の小腸由来のクローン病関連菌9菌株を用いて動物実験を行った。無菌マウスにクローン病関連9菌株を定着させることにより、ノトバイオートマウスを作出した。定着後3週間後に腸管粘膜固有層から免疫細胞を抽出し、フローサイトメトリーでリンパ球の解析を行なった。その結果、大腸ではIFN-γ産生性CD4陽性リンパ球(Th1細胞)が無菌マウスと比較し有意に増加するとともに、IL-17産生性CD4陽性リンパ球(Th17細胞)が軽度増加していた。Th1細胞の増加に着目して、9菌株のどの株が最も影響しているかを検証するために、統計解析で最も群間差の大きかったEscherichia coliについてmono-colonizedマウスを作出して解析したところ、E. coli は9菌株と同等のTh1細胞誘導能を示し、E. coliを除く8菌株との比較でも有意な誘導能を認めたことから、このE. coli 35A1株がTh1細胞誘導に関わることが示された。さらにこの誘導能は他のE. coli株であるLF82株やMG1655株のmono-colonizedマウスでは35A1株と比較して弱かった。また、腸炎誘導能も35A1株が最も強かった。このことからクローン病由来のE. coli 35A1株は菌株依存的にTh1細胞誘導能と腸炎誘導能を有していることが示された。E. coli 35A1株で誘導されたTh1細胞はDR3陽性を示していたことから、そのリガンドであるTNFSF15が関与することが推測されたが、腸管サンプルの遺伝子発現解析ではE. coli 35A1株mono-colonizedマウスと無菌マウスの間でTnfsf15の遺伝子発現の有意差は認めなかった。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究の目標のうち、目標②特定されたクローン病関連菌の腸管免疫系に影響の解析、③クローン病関連菌の腸炎誘導能に関する解析、④TNFSF15/DR3シグナルの関与の検証について上記の結果を得た。また、本結果はGut Microbes誌(Gut Microbes. 2020 Nov 9;12(1):1788898. Epub 2020 Jul 20.)と日本小腸学会総会(第58回総会、2020年10月、名古屋)で報告した。
クローン病由来のE. coli 35A1株によるTh1細胞誘導能と腸炎誘導能が示されたことから、本菌はクローン病の病態に関わることが示唆される。現在本菌の全ゲノム解析を行っているところであり、既に解読されている他のE. coli菌株との比較を行うことにより、疾患の病態に関わる候補遺伝子を特定する予定である。
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Gut Microbes
巻: 12 ページ: 1788898~1788898
10.1080/19490976.2020.1788898